監視カメラやNシステム、DNA鑑定も危ない 警察の「デジタル捜査」で個人情報は大丈夫か

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最後にDNA鑑定について。逮捕された被疑者には、刑訴法218条によって、裁判官の令状がなくても、警察は指紋・足型の採取、身長・体重の測定、写真の撮影が、被疑者を裸にしない限り許される。しかし実際には、警察は任意捜査の被疑者についても、写真と同様、半ば強制的に指紋を採取している。

これらのデータは全て、警察庁のデータベースに登録され、各都道府県警からの照会に応じている。だが、これらのデータが検挙の端緒になったのは、被疑者の指掌紋、写真、いずれも1%以下に過ぎない。

これに対し、自白に代わる”証拠の王”とも呼ばれ、にわかに脚光を浴びているのが、DNA鑑定による被疑者の特定だ。

DNAの入手や鑑定が問題化することも

自分のDNAが他人と一致する確率は4兆7000億分の1とされ、そこまで個人識別が可能なDNAデータによる鑑定は、犯罪捜査で頻繁に使われるようになっている。もっとも、DNAが究極の個人情報にもかかわらず、何の法的根拠もなく集められ、すでに警察庁のデータベースには約79万件が蓄積されているという(東京新聞、2016年5月4日付)。

2015年に東京都内で起きたある殺人事件の捜査では、警視庁が近隣住民約2000人から任意でDNAの提供を受けたと伝えられた。このDNAデータはどうなったのか、データベースに登録されたのだろうか。住民には確かめる術がなかった。警察によるDNAの入手や鑑定の方法が裁判で問題となるケースも少なくない。かようにDNA鑑定をめぐる問題が存在する。

いずれにしても警察によるデジタル捜査には疑問も多い。一人一人のプライバシーが侵害されつつあることをわれわれも認識すべきではないか。

原田 宏二 ジャーナリスト

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はらだ こうじ / Koji Harada

元・北海道警察釧路方面本部長(警視長)。2004年2月、北海道警察の裏金疑惑を告発。以降、警察改革を訴えて活動中。著書に『警察内部告発者』(講談社)、『警察崩壊』(旬報社)、『警察捜査の正体』(講談社現代新書)等がある。

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