バター不足で利益を貪る団体など存在しない 輸入バターを保管する経費は莫大だ

✎ 1〜 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ここで、飲用向けの価格が上がったときだけアウトサイダーに転じ、下がったときはインサイダーに戻るという人がいたらどうなるか。そんな勝手なマネをされたら、インサイダー内で秩序を守る人にとって不公平になってしまう。だから指定団体下の農協組織は、酪農家がアウトサイダーになるのを止めようとするし、インサイダーの秩序を守るために提供しているサービスは提供しないということになるかもしれない。それを不公平だとなじるのは簡単だが、よく考えてみてほしい。農協は組合員の一人ひとりが1票を有している公平性を旨とした組織だが、当然ながら「総意」はある。会社組織などでは通常、社員の業績や貢献度に応じて給与が支払われるものではないか。給与をもらう代わりに社員は自ら自由に動くことは制限され、組織のルールを守ることが要求されるのが普通だろう。だから、ホクレンや農協がことさら悪いという印象を与える報道は「偏っている」と書いたのである。

またコメント欄をざっと読むと、私が「特に陰謀めいたことなどない」としていることについて、そもそもそうした計画生産は酪農家や指定団体、乳業メーカーといった業界が自身を守るためにやっていることなのだから、消費者から見れば陰謀のようなものだという趣旨のものもある。実を言えば、今回書こうと思っていたことはその部分である。覚えておいでだろうか、前回記事でこうした生乳にかかわる仕組みは「国民の理解の下に」成立していると書いたことを。

チーズやバターは店頭売価では利益が出ない

乳製品のうち、飲用の牛乳はそれなりの値段で販売するため、特に何の補助金もなくやっていける。しかし加工品に関しては別だ。チーズやバターに関しては、輸入品に関税をかけている現状においても、日本の店頭売価ではなかなか利益を出すことができない。というと「ええっ?」と思われるかもしれないが、バター作りをしたことがある人ならきっとおわかりいただけると思う。バターは自宅でも作ることができる。生クリームを瓶に入れて、ずっとシャカシャカと振り続けるのだ。15分ほどすると、いきなり半透明の液体と固形化した油脂に分かれてくる。この固形物がバターなのだが、生クリームは生乳から乳脂肪を分離したもの。そこからほんのちょっとのバターしかできないことにがく然とするはずだ。まともに飲用牛乳の価格を前提にバターを作ろうとしたら、1箱1000円では済まない、とんでもない価格になってしまうだろう。チーズも同様だ。だから、チーズやバターなどの加工用にする生乳は価格を下げている。ただし、加工用の生乳も飲用向けの生乳と中身は同じだから、生産者にとっては不公平だ。そこで、加工用の生乳には補給金という補助が付けられるのである。

では、この補給金はどこから出てくるのかというと、国の一般会計財源である。平成28年度は農林水産省で、加工原料乳生産者補給金としておよそ305億円の予算が計上されている(中央酪農会議リリース)

ちなみに日本における生乳の国内算出額は約7000億円。生乳を加工し販売する乳業産業の市場規模はおよそ2兆6000億円。これを安定させるために毎年300~400億円程度を国が負担している。牛乳および乳製品は国として重要な基礎食品であるため、生乳生産がスムーズにいくよう予算をかけるということだ。国の予算ということは、私たち国民が負担しているということでもある。およそ300億円という金額は、個人としては大きいものと言えるが、一国の食料を支える額としてはそれほど大きなものではない。たとえとして適切と言えないかもしれないが、いま移転が取りざたされている築地市場の水産部で1カ月に取引される金額がおよそ350億円程度だから、その金額で日本国内の牛乳・乳製品をまかなうことができるなら御の字なのではないだろうか。

次ページバターが足りなくなると海外から輸入するが……
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事