たとえば平成27年度は、バターを海外から輸入した際に内外価格差として得られた売買差益は121億円程度です。簡単に言えば加工用乳の補給金の財源の一部になります。もちろん当機構の運営経費を差し引いた額になりますが、その内訳もすべて公開されています。
事業報告書の27ページ「補給金等勘定」というところがそれです。もっと細かい部分になると財務諸表の「補給金等勘定」の損益計算書に掲載されています。わかりにくいかもしれませんが、政府から交付金として222億円ありますね。これが酪農家に支払う補給金の財源の本体になります。そして、酪農家に対して支払った額が277億円。政府からもらった額より55億円増えてますね。この差額を指定乳製品などの売買差益でまかなっているんです。指定乳製品の買い入れ額が150億円、国内業者への売り渡し額が272億円。その差は121億円です」
――その差益122億円をalicが貪っている、と見えるみたいですね。
「そういううわさにうちが公の場で反論することは基本的にないのですが、独立行政法人のもつ利益は5年ごとに国にチェックされ、余剰があれば国庫に返納する仕組みになっています。勝手な使い方ができないように厳しく監督されているのです。たとえば、売買差益の121億円は、補給金の不足分に55億円、租税公課7億円などのほか、私たちの人件費にも一部使用しており、残額の57億円は翌年度に繰り越して翌年度の補給金の財源に充当しています。人件費についてはすべて公開されていますが支給基準は公務員に準ずることとなっています。
指定乳製品等の輸入には多額の経費がかかります。たとえば輸入したバターなどを保管する経費だけで6000万円かかるのです。そういった支出が多いので、それなりの利益をもたなければ、国家間貿易などできません。上がった利益は最終的には国の財源の一部に充てられているのですが、そこが理解されていないのが残念です」
いかがだろうか。話を聞いて決算書類に目を通すと、alicという機構が利権を貪っているという表現は、ちょっとそぐわないのではないかというのが筆者の感想だ。また、売買差益は経費を差し引いたうえで、酪農家に支払われる補給金の原資になっており、この額が大きければ結果として税金の節減に資することになっている。その仕組み自体に不明瞭な部分はないと言えるのではないだろうか。なお、本見解についてビジネスジャーナル編集部に指摘をしたところ、記事の訂正をする予定はないが、今後の参考にするとの返答があった。
酪農維持費「300億円」をどう考えるか
バター不足が起こっている背景として、日本における生乳がどのように使用されているか、どのようにお金が回っているかを概観してきた。結論として、日本では酪農生産~流通~牛乳・乳製品の販売に至るシステムを維持するために計画生産をしており、毎年300億円程度の国民負担が発生している。問題が、生乳使用の末端となっているバター不足という部分で初めて目に見えるようになるためにわかりづらいのだが、実際にはそういうことである。
だから問題の本質は、牛乳・乳製品の現在の販売価格や、それに加えて年間300億円を負担している国民が納得感を感じるかどうかということにあるのだと筆者は考える。ただ、消費者の立場からすると「食べ物は安ければ安いほどよい」であろうから、「現在の牛乳やバターの価格は高い、もっと安くできるなら自由化でもなんでもしてしまえばよい」という声も一定以上上がるだろう。
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