モバイル決済が新興国に与える恩恵は絶大だ 「手のひらの革命」は世界経済を変えていく

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もうひとつ利点はアクセス拡大だ。モバイルバンキングの拡充で、新興国でもいずれスマホの全保有者が口座を持てるようになるはずだ。

MGIの試算では、デジタル金融によるGDP(国内総生産)押し上げ効果のうち、3分の2は現金や記録文書の保管が不要になるなどコストの削減効果。3分の1は融資の増加に伴う投資の活発化の影響だ。

デジタル金融が普及すれば、2025年までに新興国のGDPは3.7兆ドル増える。ナイジェリアやエチオピア、インドといった金融システムが未整備な低所得国では、GDPは最大12%増える計算だ。

手頃な料金体系や競争環境の整備が不可欠

ただし、こうした新たなモバイルマネーサービスの恩恵を享受するには条件がある。まずは手頃な価格の通信プランが必要なことだ。各国政府や非政府組織が通信会社に働きかけ、通信網を隅々に広げることも不可欠だ。また、政府が銀行と通信会社のシステムの相互接続を保証しなければ、スマホを使った金融サービスを普及させることは難しい。

詐欺防止のために、有効なIDの登録者比率を上げることも求められる。それにはデジタル認証の仕組みが欠かせない。すでにマイクロチップや指紋などによる認証技術を組み込んだデジタルIDは、新興国においても普及しつつある。

規制緩和を通じて、フィンテック企業や通信会社の競争と革新を促進する必要もある。銀行免許を持たない業者でも小口顧客に金融商品を提供できるようにするなど、段階的な規制緩和が講じられるべきだ。

英国には「レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場)」という仕組みがある。新興のフィンテック企業が一定規模に成長するまでは、現行法の即時適用を見送り、安全な実験環境を提供するのである。

世界銀行は20年までに世界各地の貧困層が金融システムを使えるようにする方針。すでに新興国の数十億人がスマホを使っており、世銀の目標は現実味を帯びつつある。

週刊東洋経済12月31日・2017年1月7日合併号

ローラ・タイソン 米大統領経済諮問委員会元委員長

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Laura Tyson

米カリフォルニア大学バークリー校教授。ロック・クリーク・グループのシニアアドバイザー。

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