テレビの音楽番組はどこへ向かえばよいのか 音楽番組の"今"を探る

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大人のマーケットが求めているのははっきりしている。それは良質な“大人の音楽”だ。Jポップでもない、演歌・歌謡曲でもない“大人の音楽”を〈Age Free Music〉と私は名づけて提唱している。たとえば秋川雅史の『千の風になって』、すぎもとまさとの『吾亦紅』、秋元順子の『愛のままで…』などだ。こういう〈大人の歌〉をもっと積極的に売り出すべきなのだ。需要はここにある。

「流行歌」はもはや不要?さてテレビはどうする?

ジャニーズ系、AKB系もいいが、これらは若者たちの需要は満たしても、大人たちの需要を満たしてくれるものではない。つまり、二極分化してしまった現在においては、若者マーケットと大人マーケットは別々に存在しているということだ。だからこそ、2つのマーケットをひとつにセットしてしまうという戦略は合っていないことになる。

そんな観点に立ってテレビの音楽番組を見ると、現実をとらえていないように私には見える。つまり、〈大人の歌〉と〈若者の歌〉に二極分化して、現在は世代を超えて聴かれる誰もが知っている〈流行歌〉は必要とされていないのだ。にもかかわらず、「NHK紅白歌合戦」「FNS歌謡祭」「輝く!日本レコード大賞」など大型音楽番組は、老若男女を取りこもうと必死になっている。笑止千万と言うしかない。

かつて「紅白」が人気を博し必要とされていた時代は、テレビはお茶の間に1台あって家族全員が見ていたので、若手から中堅、ベテランまで、また演歌、歌謡曲からフォーク、ニューミュージックまで世代やジャンルを超えた多様な音楽が必要とされていた。しかし、時はうつろい、今やテレビは一人ひとりが持ち、いや、若者たちはインターネットで見ている。つまり、現実は家族全員で見ることはなくなり、個人で好きな番組を見ている。何でもかんでも詰めこんだ総花的なものは時代にそぐわなくなってきているのだ。

だとしたら、「紅白」は、第一部は〈大人の歌〉、第二部は〈若者の歌〉と分けたほうがいいのではないか。「FNS歌謡祭」もやたらアーティスト同士のコラボレーションをしていたが、やはりその人の歌をきちんと聴かせてほしいというのが本音だ。

今、BSに〈大人の歌〉を扱ったいい番組が多い。人気も高いようだ。だとしたら、BSは〈大人の歌〉にもっと徹したほうがいい。地上波ではできない〈大人の歌〉に特化する。これぞBSの生きる道である。かたや地上波は、世帯視聴率が壊れた今、何に活路を見出すのか? BSに対抗するには〈若者の歌〉に特化するべきか? 悩ましいところである。その答えは、音楽業界の現実をどうとらえるか?にある。

富澤 一誠 音楽評論家

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とみさわ いっせい / Issei Tomisawa

1951年長野県生まれ。20代で音楽誌への投稿を機に音楽評論活動に入る。日本レコード大賞常任実行委員およびアルバム賞委員会委員長。著書に『あの素晴しい曲をもう一度:フォークからJポップまで』『ユーミン・陽水からみゆきまで』など多数。

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