日本の学生は、世界的にみると特権的立場だ 「欧米型就職活動」の安易な導入が危険な理由

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日本の採用がポテンシャル重視なら、欧米型の採用は即戦力重視だ。筆者が住んでいるドイツは、古くから徒弟制度があり、特に職業意識が高い。日本のように、さまざまな仕事に対応できる「ジェネラリスト」ではなく、特定の分野に精通している人材が求められる。それは、大学を卒業したての若造に対しても同じだ。

「学生に知識と経験を要求するのは無理では?」と思う人もいるかもしれないが、それこそが「甘い」のだ。ドイツの大学の講義内容は、高等教育にふさわしい深く実践的な内容で、大学卒業の時点で「専門知識がある人材」と認識される。また、最近ではインターンシップを必修とする学部も多くなっており、学生であっても職務経験が求められている。

ベルリンにあるフンボルト大学を例として挙げると、主専攻となりえる文系学部は32あり、そのうち25学部のカリキュラムに、選択、もしくは必修のインターンが組み込まれている。また、大学に通いながら働くWerkstudentという雇用形態もあり、週2日大学に通い、週3日は企業で働くといったことも可能だ。「学生だから実務経験はありません」は通用しない。

ドイツ・ダイムラー社の求人は?

新卒採用を行っていない、ドイツ企業の求人をいくつか見てみよう。ダイムラー社のシステムエンジニアの求人では、「技術系の学部卒業、IT分野の職業教育を修了、もしくは数年の職歴がある人」がひとつのポストを取り合うことになる。ドイツ銀行の人事部は、「経済経営学部、法学部、もしくは人文科学系の学部で経済分野を専門に学び、とてもよい成績で卒業」したうえで、「海外留学経験」がある人が応募でき、「銀行、もしくは人事部でのアルバイト、インターンシップ経験」があれば優遇される。学生でも専門知識、経験を得られる環境だからこそ、こういった求人ができる。

そんな現実を知らなかった筆者は、日本の就職活動と同じ心持ちで、日本の大学を卒業した後、ドイツで就活をしたのだが、面接では、「大学でなにを専門に学んだか」「この職種に関する職歴はあるか」と聞かれた。専門知識も職歴もない私は、「この分野なら任せてくれ」というアピールができず、「即戦力にならない」と判断され、内定を得られなかったのだ。欧米型の就活は、日本の新卒一括採用とは、考え方も、採用基準もまったく違ったのである。

新卒採用の際、日本の企業が学生に求めるものは、実践的な能力ではなく、「これからどれだけ活躍できそうか」という点だ。リクルートキャリアは「就職白書2016」上で、1231社を対象に「企業が採用基準で重視する項目」についての調査結果を発表している。それによると、「人柄」を採用基準にしている企業が93%と最多であり、その後は「自社/その企業への熱意」の79%、「今後の可能性」の68.4%が続く。多くの企業が採用基準としているのは、「人となり」という抽象的なものだ。

また、「大学/大学院で身につけた専門性」を採用基準として重視する企業は23.5%、「大学/大学院での成績」を重視するのは19.3%であり、大学でなにをどれほど勉強していたかを問われることは少ない。「インターンシップ経験」に至ってはたった4.5%と、「ほとんど興味がない」といえる結果になっている。

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