日本の学生は、世界的にみると特権的立場だ

「欧米型就職活動」の安易な導入が危険な理由

この結果からわかるように、学生は、日本の新卒採用のおかげで、ポテンシャルさえ買ってもらえれば、内定を得ることができるようになっている。これは学生にとって、「恵まれた環境」ではないだろうか。新卒一括採用が、日本の安定した雇用に一役買っていることも、無視はできない。日本は先進国の中でも若者の失業率が低く、2016年3月卒の学生の内定率は、4月1日時点で、驚異の97.3%だった。また、新卒就業者は「未経験」が前提なので、企業は研修・教育をしてくれるし、仕事内容を限定されないので、さまざまな業務に従事して経験を積むことができ、昇進のチャンスも多い。

企業にも、新卒採用のメリットがある。学生に専門知識や経験を要求しないため、仕事内容を限定せず、総合職や事務職といったかたちでの採用が可能だ。その後、個人の能力や成長具合を考慮して、転勤や部署移動で人事管理することができる。定期的に若者を採用できることから、社内の人口ピラミッドが安定し、企業カラーに合った人材を育成できる。新卒採用には長所も多いのだ。

「即戦力」を目指すことができる環境か?

だが、そういった長所はあまり注目されず、「新卒採用はよくない」という批判の声が大きくなっている。日本のシステムに問題があるとなると、必ずといっていいほど引き合いに出されるのが、欧米のシステムだ。しかし、日本の学生が、欧米型の採用システムを勝ち抜いていけるのだろうか。

2016年3月に発表された日本学生支援機構のレポートによれば、日本の学生の2.6人に1人がなんらかの奨学金を受給しており、アルバイトをして生計を立てている学生も多い。そんな状況で、「学生は学業に時間を割き、無給でも積極的に企業で働いて経験を積み、即戦力になれ」というのは酷だろう。欧米型採用の導入は、ポテンシャルで勝負していた日本の学生を追い詰めるだけだ。

欧米型の採用システムにするのであれば、大学は学生に専門教育を施し、企業は職務経験を積めるように積極的に受け入れなくては成り立たない。また、国は学生が学業に専念できるように奨学金制度を強化し、若者の失業対策のためにさらなる支援をする必要がある。欧米に追随した中途半端な改革では、大学を卒業した若者が路頭に迷い、企業が望んだ人材を得られなくなる危険もある。そうした混乱が生じるよりは、堅実な新卒採用を維持したほうがいいのではないだろうか。

もちろん、一部の帰国子女や既卒といった、「新卒特権」を享受しづらい立場の人たちにチャンスを与えることも必要だ。だが、それは「新卒」の定義を拡大すればいいだけで、「時期にとらわれず就活できる欧米型の採用がいい」という結論は尚早だろう。日本の新卒採用制度は、一見、学生に厳しい生存競争を強いているように見えるが、実際は実力がない学生にチャンスを与えており、企業も新卒採用の恩恵を受けている。それを壊してまで、欧米のマネをする必要はないだろう。

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