グーグルの考える高いコンテンツ品質とは大まかにいうと、内容が豊富であり、単に検索したキーワードが入っているにとどまらず、ユーザーの需要に応える情報を供給していることだ。この状態を備えた記事を上位に表示するために、グーグルは検索アルゴリズム(コンピューターの計算方式)で200もの要素を考慮している。
インターネットにちょっと詳しい程度の人では、結局のところ何を書けばアルゴリズムに評価され、検索結果の上位になれるのか今ひとつわからない。
このグーグルが詳細には明かさない「正解」を、今や日本を代表する学歴エリート集団のひとつであるDeNAは自力で導き出し、詳細なマニュアルに落とし込み、不特定多数のライターでも再現できるまでにした。その結果、DeNAのキュレーション記事はことごとく、検索結果の1位を占めるようになった。1位になれば、多くの人がクリックして読む。そうすればPV数に応じた広告収入が黙っていても入ってくる。
さて、DeNAが記事における問題を認め、サイトを一挙に閉鎖した現時点の問題は、「不正確な情報を垂れ流すことで稼いでいるのは、DeNAだけではない」ということだ。週刊東洋経済は12月5日発売号で『情報の裏側 ググるだけではカモられる』を特集。粗製乱造されるネット情報の裏側や情報賢者の読書&ネット活用法などを追っている。
SEOに詳しい鈴木謙一・ファベルカンパニー取締役はこう打ち明ける。「身近な人の健康問題で最近、ある病気について調べた。検索結果のトップ3どころか数ページにわたって表示されたのは、キュレーションサイトやアフィリエイトブログの記事。リテラシーがありこれらの記事を除外して情報を探せる人はいいが、そうではない普通の人にとっては、危険極まりない内容だ」。
不正確でも周到に対策した情報は上位に表示される
グーグルは「YMYL(ユアマネー、ユアライフ)」という言葉で、おカネと命に関わる情報については、前述のアルゴリズムでより厳しく精査している。ところがそれでも、「現在のコンピュータ技術では、記事の内容の正しさや信頼性までは判断するのは難しい」(鈴木氏)。その結果、健康に直結する医療情報ですら、不正確でも周到にSEO対策した情報が検索結果の上位に表示されている。
インターネットとスマートフォンの普及により、私たちは四六時中、情報に触れられるようになった。だがそんな現代人が、「スマホ以前」よりも飛躍的に賢くなったかというと、そうとはとうてい言えそうにない。信頼できる機関が発信しているがSEO対策を考慮していないコンテンツは情報の海に埋没する一方、エセ科学的知識や極度に偏向した政治的意見でも、検索結果の上位に表示されれば多くの人の目に触れる。ここにフェイスブックのようなSNSが絡めば、「口コミ」「知人のリコメンド」という付加価値をまとってウイルスのように拡散していく。
権威ある英語辞書のオックスフォードは2016年を象徴する言葉に、「Post Truth」を選んだ。日本語にすれば「脱・真実」。客観的事実よりも、感情や偏向した意見のほうが人々の行動を左右するという現象を指しており、米大統領選や英国のEU脱退投票をめぐる大衆心理を読み解く考え方だ。この真実に背を向ける動きには間違いなく、ネット情報が寄与している。
その意味で、DeNAの問題は一企業にとどまらない(だからといって、DeNAという大手上場企業の社会的責任が減じられるわけは決してないが)。この問題が明るみに出したのは、ネットという知的社会インフラの影であり、現代人には自身の知性と生活を守る情報リテラシーとインテリジェンスが今まで以上に求められているという現実なのだ。
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