IT企業が人工知能の枠組みを提供するワケ 深層学習はビジネスをどう変えるか?

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海外では深層学習技術を用いた監視カメラ「Presence」をNetatmo社が発表。屋外に設置し、家の周囲を歩きまわる人影や自動車、犬やネコといったものをリアルタイムに検知し、ユーザーのスマートフォンなどのデバイスに通知する機能を提供する予定です。

また、国内でもっとも注目すべきベンチャー企業はプリファードインフラストラクチャー(以下、PFI)の子会社、プリファードネットワークス社(以下PFN)です。PFNは、NTT、トヨタ、ファナックなどから合計20億円近い出資を集めたベンチャー企業で、国内最先端の深層学習技術者が集まる梁山泊でもあります。

PFNが発表した深層学習フレームワーク「Chainer」(チェイナー)は、扱いやすさから国内外で大きな支持を受け、特に国内では圧倒的に人気の高い深層学習フレームワークのひとつとなっています。

4大IT企業がこぞってフレームワークを公開

PFNのChainerは、ジャンルとしてはグーグルのTensorFlow(テンソルフロー)、フェイスブックのTorch(トーチ)、マイクロソフトのCNTK、アマゾンのDSSTNE(デスティニー)などと同じ、深層学習のために設計されたフレームワークです。フレームワークとは、ある目的に特化した機能を使いやすく実現するための、プログラマー向けのプラットフォームです。それぞれのフレームワークで異なる特徴があります。

Chainerが発表されたのは2015年の4月ごろ、TensorFlowが11月、DSSTNEが2016年の5月ですから、1年の間に3つも新しいフレームワークが発表されたことになります。

そもそも門外不出であったはずの最先端の人工知能フレームワークを、しかも世界の名だたる巨大企業が相次いで無償で発表するということはどういう意味を持つのか。この業界に明るくない人には想像がつかないかもしれません。

こうした最先端の研究成果が無償で公開されている裏には、もちろん次世代の深層学習ビジネスで生き残るための戦略が見え隠れします。各企業で微妙に思惑が異なるでしょうから、あくまで推定という形でしか書くことはできませんが、彼ら巨大企業たちがこぞって無償のフレームワークを提供する狙いは以下の3つです。

●人工知能研究者・開発者コミュニティにおける自社のプレゼンスの向上
●人工知能開発者を自社のクラウドサービスへ誘導する
●最終的に人工知能技術でイニシアティブをとる

 

今、この世界に圧倒的に不足しているのは、深層学習に強い人工知能研究者です。記号処理や推論といった、いわゆる“大人の人工知能”の研究者が大勢を占めるというのは、世界的な現象であり、日本国内だけの問題ではありません。従って、人工知能の研究者がすなわち深層学習の研究者ということにはならないのです。

むしろ数多くの人工知能研究室が「深層学習を取り入れるか、それとも現状維持で頑張るか」の二択を迫られています。“子供の人工知能”と”大人の人工知能”の融合を指向する考え方もそれほど珍しくなくなってきています。実際、自然言語処理などに深層学習の成果の一部を取り入れようという試みはすでに始まっています。

こうなったときに、高度な人工知能を開発するためにはフレームワークに精通している必要があります。そして、もっとも普及したフレームワークを作り出した会社が、まずは人工知能研究者・開発者コミュニティにおける絶対的なイニシアティブを執ることができるのです。

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