医療介護ではどの費用項目が削られるのか 17年度予算編成で大詰めの社会保障費抑制

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×要介護度の低い人向けサービスの範囲の縮小

要介護度が低い高齢者にも提供されている生活支援サービス。主に、部屋の掃除や食事の調理などが、これに該当する。確かに、要介護度が低くても、生活支援サービスが必要な方もいる。しかし、要介護度が低い高齢者への介護サービスは、自立を支援するためのものが基本である。そうした高齢者の中には、自己負担を払っているのだから、掃除や調理をヘルパーさんが全部して当然で、なぜ要介護者に手伝わせるのか、と不満を漏らす利用者もいるという。掃除や調理を手伝わせるのではなく、ヘルパーがいなくても自立できるように支援しているはずなのに、である。こうした形での要介護度の低い人向けサービスを、整理し不要不急のものは外すことが考えられるが、抜本的な改革は、利用者側の反対が多いこともあり、全くといってよいほどゼロ回答である。サービス範囲の見直しは、先送りされてしまいそうである。

要介護度に応じた見直しはハードル高い

介護サービスの自己負担額の上限の引き上げ

介護にも、医療の高額療養費制度と同様に、自己負担の上限額が設けられている(高額介護サービス費)。この上限額も、一定の所得がある高齢者でも低額に設定されている。これを、引き上げることが検討されている。

他方、要介護度の低い高齢者は、負担額自体は重くないので、もう少しご負担をお願いできないかと検討されたものの、たとえば、要支援1・2の人は自己負担割合が3割で、要介護1以上の人は自己負担割合が1割、となったとすると、身体の状態がそこまで悪くなっていないのに自己負担割合が軽くなるからといって、要支援2の人が要介護1になるといったことが起きかねない。そうした形で自己負担割合を上げるのは難しい。ただ、前述の要介護度の低い人向けのサービスのあり方と合わせて考えると、サービス範囲の見直しが進まないなら、必要度の低いサービスや通常の人と比べてサービスを過剰に使う人などに対して、自己負担を多めにしてもらう方策(区分支給限度基準額の変更など)が考えられる。しかし、実現への道のりは遠い。

これらを、単に列挙しただけだと、取れるところから負担増、声の小さいところから給付カットをしているかのように見えるかもしれないが、そうではない。東洋経済オンラインの本連載の拙稿「進次郎氏らが掲げる社会保障の将来像を読む」でも述べたが、医療や介護では、小さなリスクは自己負担で、大きなリスクは公的保険でカバーすること。そして、負担は年齢で区別するのでなく経済力に応じて求めること。これらをより貫徹する方向に、今回の改革は向かっている。そうした将来像を見据えた第一歩となるだろう。
 

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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