「夢の印税生活」のそんなに甘くない現実 ビジネス書作家の多くは執筆のみで食えない

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講師料の相場は、2000年代に入って大幅なデフレに陥ったそうである。だが、仮にデフレで半減したとしても、一回あたりの報酬は5万~10万円である。月に10回壇上に立てば、50万円から100万円となる。

本の印税で同額を稼ぐことは可能だが、一冊の本の原稿執筆にかかる時間と労力を考えれば、圧倒的に講師料のほうが比較優位性は高いはずだ。

稼ぎのメインストリームが他にあるせいか、ビジネス書作家の多くはあまり印税のことを気にしていない。

しかし、作家という仕事も経済行為である以上、印税に無関心というわけにはいかないだろう。それに世間の作家を見る目には、印税生活者という憧れに近い思い込みがある。

そこで今回は、少し印税のことについて書くことにする。前もって言っておくと、なにごともそうだが、「夢の……」などと言われるものの現実は、案外つまらないものである。

印税の水準

印税も例外ではない。

印税というものが、作家がまともに生活できる水準になったのは、以前に「岩波文庫」の話のときに紹介した、昭和のはじめの「円本ブーム」からといわれている。

ミスターX●ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中

円本とは一冊一円の文学全集のことで、改造社の経営者山本實彦氏が「現代日本文学全集」で先鞭をつけ、多くの出版社がそれに倣(なら)った。円本は全巻同時発売するのではなく、発行は一巻ずつだったが、基本は予約制であった。

予約が多ければ先の見通しが立つので、刷り部数は、当時、初版500冊程度が一般的だった書籍の市場で、1万部、2万部という異次元の単位で次々と発行された。

発行部数が巨大化するのに従い、作家の印税も従来とは比べものにならないほど増えた。作家が借金せずに暮らせるようになったのは、円本のおかげともいわれている。

ちなみに印税の印とは印刷のことではない。印鑑の印である。昔の本には、奥付(一番最後のページ)に著者検印というものがあった。現在では、ほとんどの本が検印省略となっているが、昭和50年代半ばくらいまでは、作家のハンコが押してある本は珍しくなかった。検印とは作家が、出版社が申告したとおりの部数を正しく印刷したかどうか、一冊一冊確かめるために自分のハンコを押したのである。

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