中学入試は「塾業界の都合」に支配されている 「詰め込み教育」で勉強嫌いの子を増やすな
実は、この問題の背後には「受験産業の都合」が存在する。大量の詰め込みドリル学習が必須なのは、子どものためでも親のためでも学校のためでもなく、受験産業のためなのである。
受験産業にとって、大量の詰め込みドリル学習という対策サービスは、自らが儲かるための、なくてはならない仕組みなのである。
今から30年以上前、中学受験対策といえば四谷大塚の「日曜テスト」という時代があった。毎週日曜日にテストを受けるだけ。それだけが対策になるという時代があったのだ。では、新しいことを習ったり、質問したりするのはどうしていたのか。それは地元の個人塾が担っていた。はやっている塾にはだいたいカリスマ塾長がいて、個性のある独自の教育を一生懸命やっていた。もちろん詰め込み教育も行っていたが、それだけではない。ディスカッションをしたり、実験をしたりと、カリスマ塾長によるユニークな授業が展開されていた。
受験塾が組織化し、マニュアル化が進行
ところがその個人塾が成長すると企業になっていく。そうなるとカリスマ塾長の属人的な力ではなく、社員という組織的な力で成果を出さなくてはいけなくなる。そこで、それまでのハンドメードの授業を捨て、少しずつマニュアルを作りながら、社員でもできる画一的な授業へと変化していく。さらに中学受験対策事情にも変化が起こる。四谷大塚が予習シリーズという教材を発表し、それを使うことで毎日受験対策ができるようになったのだ。当然、組織化された塾もその教材を使うようになる。
ここまでくると、マニュアル型の能力(いわゆる読み書きそろばん)は育てられても、創造力や表現力といった高度な能力育成は難しくなっていく。そうやって塾の仕組みそのものが、マニュアル型のスキルを育てる詰め込みドリル学習のシステムへと、変貌を遂げてきたのだ。
つまり、現在の受験対策で必須とされているカリキュラムは、親や子どもといった消費者側のニーズによって作られたものではなく、あくまで供給側の都合によって作られたものなのだ。そしてこの「受験産業の都合」は、受験サービスだけでなく、なんと中学が行う入学テストの形式にまでその影響力を拡大することになる。
受験塾が組織化し、大企業へと成長していくことで、その影響力は学校にまで及んでいく。なぜなら大量の生徒という母集団を持つことになった受験塾は、学校からすると、営業して生徒を送り込んでくれるようにお願いする存在になったからである。これは大きな転換点だ。それまで学校は自分たちの理念に従って、生徒を募集し選抜してきたが、受験塾と仲良くしなければ生徒が来ないで定員割れになるという、死活問題へと発展しかねない事態になったのである。こうして塾の影響力は拡大の一途をたどる。
さらに受験塾は、偏差値という仕組みを発明する(正確には偏差値を学校の評価に応用する)。現在でも学校選びの基準として偏差値を利用している保護者は少なくないだろうが、この偏差値を決めているのはもともと塾なのである。その仕組みはこうだ。
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