翻ってわが日本はどうか。1989年6月に宇野宗佑内閣が誕生してからこれまで延べ17人の総理大臣が誕生しており、現在の第2次安倍政権が誕生するまでは、政権の固定化より、むしろ流動化が問題になってきた。
短命内閣が続いたこともあり、顔触れという面では権力の固定化は見られない。しかし、1989年6月以降誕生した17人の総理大臣のうち10人は2世・3世政治家であり、細川護熙元総理を含め、こうしたいわゆるエスタブリッシュメントが支配してきた日数は合計約7000日、比率にして70%強にまで達している。
こうした中、自民党は党総裁の任期を「連続2期6年」と規定している現在の党則を「連続3期9年」に改正し、安倍総理が2021年9月まで続投出来るような環境整備を行っている。
仮に安倍内閣が2021年9月まで存続するとしたらどうだろうか。総理在任日数は歴代最長の3567日に達する。この数字は、一人で1989年6月の宇野内閣以降の日数の約30%を占め、いわゆる「エスタブリッシュメント総理大臣」が政権を担う比率は約77%に達することになる。
これは、ヒラリー・クリントン大統領がもし1期4年政権を担っていた場合の、ブッシュ家とクリントン家が大統領の椅子を占める比率「75%」をも上回る数字だ。
また、現在の第二次安倍内閣の閣僚20人のうち7人は世襲議員であるうえ、国会議員の3~4割が世襲議員で占められていることを考えると、日本のエスタブリッシュメント支配は米国より進んでいるということもできそうだ。
「トランプ現象」が周回遅れで日本に起きる可能性
バブル崩壊以降、日本では金融分野を中心に、「日本は欧米と比較して周回遅れ」だと指摘されてきた。そして、バブル崩壊後に限らないが、米国で起きたことは、数年後に日本でも起きるといわれてきた。
日本では、トランプ大統領決定の原因をポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭によるものとする分析が主流だ。だが、仮に今回の大統領選挙の要因が、「エスタブリッシュメントによる大統領の独占」に対する危機感だったとしたら、こうした大衆の危機感は「周回遅れ」の日本でも起きることは十分に考えられるのではないか。少なくとも格差社会は、日本でも既に問題化している。
今回の大統領選も、6月の英国国民投票も、事前の世論調査とは異なる結果となったのは興味深い。膨大なデータをもとに高性能のコンピューターを使って分析して出されたはずの調査結果が、結局は間違ったものだったということは、人々はこれまで蓄積されたデータとは異なった価値観で行動し始めていることを示唆するものでもある。
エスタブリッシュメント政権の長期化を図る日本の動きは、泡沫候補といわれたトランプ候補を大統領にまで押し上げた米国社会の流れに逆行するものだ。安倍1強のもと、巨大与党に対抗できる野党が存在しない日本では、世論調査が大きく外れることは考え難い。しかし、米国大統領選挙で見えたエスタブリッシュメント支配の固定化を懸念する潮流が今後日本でも台頭してくる可能性は否定できない。日本は「米国と比較して周回遅れ」で動いているのだから。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら