[11月8日 (執筆:アリー・クルグランスキー)] - 今回の米大統領選では有権者が、過去のどの選挙より、良識からかけ離れた心理的行動を起こした、と言えるだろう。
そもそも、有権者は誰に票を投じるのかを、どうやって決めるのだろうか。たとえば、決起集会に参加した後なのか、それとも、それぞれの候補者の政策をきちんと調べた後なのか。国が今抱えている課題を研究するのか、あるいは、討論会を見て決めるのか。ひょっとしたら、服装や髪型、声の調子が重要な判断要素になるかもしれない。
第3代大統領トーマス・ジェファーソンは、健全な民主主義には「情報を与えられた有権者」が不可欠であると説いた。この情報時代にあって、一般市民に情報が行き渡るようにするのは簡単と思うかもしれない。しかし、今回の大統領選をこのような「悪夢」に変えたのは、情報であり、また、誤報である。
有権者の判断を左右した2つの要素
「情報を与えられた有権者」という概念は2つの想定に基づく。ひとつは、有権者が事実に基づき、(本質的な問題と)関連性が高い「良い情報」を手にしているということ。もうひとつは、入手できるすべての情報を有権者が注意深く吟味し、理にかなった決断をするということだ。これは政治学者ハーバート・サイモンが呼ぶところの「制約された合理性」であり、入手可能な情報を元に最良の選択をすることを意味している。
しかし、これらの想定が今回の大統領選では成り立たなかった。ドナルド・トランプ、ヒラリー・クリントンともに、感情と視覚に訴える選挙運動に終始したからだ。
今回の選挙結果は「発見的推論」と「アクセシビリティ効果」で説明がつく。発見的推論は根拠よりむしろ、何かに対する連想に基づいて意見を形成することをいう。これにより、根拠にも経験則にも基づかない行動につながっていく。アクセシビリティ効果は、優れている可能性がある情報ではなく、「真っ先に思い浮かぶ」考えを優先することをいう。情報の価値や一貫性よりも、その頻度や最近触れたかどうかということが重要な決定要素となる。このため、実際には決断を阻む、あるいは、偏らせる場合もある。
実際、こうした2つの心理的なメカニズムは、今回の選挙にどのように影響したのだろうか。