一般的な経験だけでなく、数多くの科学的調査が示すように、人間の注意力が持続する時間は限られている。これが何を意味するかというと、ある時点での態度や意見は、われわれの記憶の中にある入手可能な情報に基づいているということである。また、繰り返し放送されるテレビ広告で情報を流し続けることは、その情報のアクセシビリティだけでなく、支配力を向上させることにもつながる。延々と繰り返されるクリントンのメール事件のニュースや、トランプのメキシコ人に対する発言が、最終的に有権者の決断を左右したのはそのためだ。
候補者にとってそれが支援的であれ、有害であれ、有権者に繰り返し同じ概念や情報を与えることは、継続的なアクセシビリティにつながり、これが有権者の意見となっていく。しかし、こうした意見は、別の概念や情報が入ってくることによって一時的にブロックされてしまうことがある。だからこそ、政治運動では情報公開のタイミングが極めて重要なのである。世論調査の結果が、5日間のスパンで見ると乱高下しているのに、月ごとに見ると安定していたのはこれが理由だ。
悪い情報の公開が投票日に近かった方が敗れた
今回のドラマティックなケースを振り返っておこう。トランプの女性蔑視発言動画が世間にさらされる前、9月末の同氏の支持率は43%だった。10月7日にこの動画が流れたことで、多くの有権者は一時的に意見を変えたが、その後もテレビで絶え間なく同氏の広告が流れていたこともあって(つまり、発見的な情報のアクセシビリティが高かったため)支持率は最終的に9月末の水準に戻した。繰り返し出される情報に伴う「刷り込み」に対し、一時的な情報の影響力は長く続かないのだ。
同じように、10月28日に米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コーミー長官がクリントンのメール事件の捜査を再開すると発表したことは、同氏に関する情報を一時的に妨害した。実際、捜査再開が発表された直後の世論調査では、クリントンの支持率は低下。が、その後、同じ理由で支持率は回復した。
しかしながら、ある情報の公開が投票日に近ければ近いほど、その情報の有権者への影響力は大きくなる。ジェファーソンが言う通り、「情報を与えられた有権者」が民主主義で重要な役割を果たすのは間違いないが、この概念が今日の政治的現実的において意味することは200年前とは大きく異なるのである。
これが、今回の選挙戦が「悪い冗談」であり、「品位の完全なる喪失」であり、「帝国の堕落」と受け止められた理由だ。心理学によって、この茶番が起きた理由は説明できる。重要なのは、こうした結果を踏まえて、軌道修正を図っていくことである。
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