中国とロシアは、なぜ「トランプ支持」なのか 日本と米国の関係は非常にデリケートになる

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首相はじめ官邸はかなりロシアに前のめりだが、日米関係の最大のカギはロシアなのだ。日本を取り巻いてきた地政学的な環境が、ロシアとの関係強化で大変化を起こすという構図を誰も見ていない。北方領土に関する日ロ交渉は、「二島か、四島か」といった次元ではなく、「日ロ提携か、日米同盟か」という重大な選択の問題だ。

安倍首相が「日米同盟はわが国の根幹であり、米軍が歯舞・色丹に来ることが原則的にありうる」と言って返還を実現できるのか。これなら日米同盟派としては満点だが、プーチン大統領がそれをのむかどうか。

「プーチンの狙いは経済だ」と日本では思われているが、それはまったく違う。ロシアを相手に経済的利益を得られるなら、日本企業はとっくの昔にやっているはずだ。しかも、ロシアは先進国でODA(政府開発援助)の対象でもない。ハイリスク・ノーリターンの可能性もありうる国で、日本企業がロシアとの関係改善を錦の御旗にして進出するのか。日本は社会主義の国ではない。

プーチン大統領の現実的な狙い

プーチン大統領には、もっと現実的な狙いがある。現在、アジア太平洋地域では米国が圧倒的な力を持っている。その力の源泉が日米同盟と米韓同盟だ。今回の日ロ交渉次第でその一方が崩れ、ゲームが変わってくれば、プーチン大統領にとってしめたものとなる。実は、これこそプーチン大統領の一番の狙いなのだ。

日本を属国と表現する向きもあるが、「属国」というのは米国の言うとおりにやるということだ。であれば、北方領土交渉なんてできない。オバマ政権はロシアが米国の選挙干渉のためにハッキングをしていると言っている。日本はそんな国と友好関係を築いていいのか。本当に米国の属国ならば、プーチン大統領を日本に呼べないはずだ。そういう意味で、日本は主権国家なのだ。

ただ、米国の死活的な利益に抵触するようなことを日本がすれば当然、干渉するはず。少なくとも今の日本とロシアの接近はそこまでのレベルではない。「どうぞお好きに」という感じでとりあえず傍観している。もっとも米国の内心は「日本がロシアと距離を縮めるのであれば、そういうものとしてわれわれも付き合うよ」ということ。

同盟国を不快に思わせていることを安倍政権はどこまで認識しているのか。同盟とは、条約を結んで終わりではなく、それを維持するために双方が努力するものだ。日本はそれを忘れている。北方領土交渉の結果次第では、今後の日米関係にきしみが生じる可能性は当然ある。

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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さとう まさる / Masaru Sato

1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。

2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

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