人類は、一体いつから文字を使い始めたのか 氷河期の洞窟に残された32の記号の正体

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カナダ・ビクトリア大学人類学博士課程のジェネビーブ・ボン・ペッツィンガー。自ら52カ所の洞窟に潜り、幾何学記号のデータを採取。これまで誰も本格的に研究してこなかった氷河期の記号の謎に迫っている

氷河期の洞窟における大きな謎である幾何学記号の研究は、これまで「解明するのが難しい」ということで放置されてきたところがあります。3万年前の人がなぜその記号を書いたのか? 記号が何を意味するのか? というのは、当時の人類に聞くことも出来ないのでとても難しい問題です。みんなが避けてきたことに、彼女は真正面からチャレンジしています。

氷河期の芸術とシャーマニズムの関連性

『最古の文字なのか?氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く』は11月10日発売(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

実際に、データベースを作ることでこれまで検証できなかったことができるようになりました。本書の最後の章で、彼女は自らのデータベースを使って「シャーマニズム説」を検討しています。

トランス状態に入って超自然的存在と交信するシャーマン。氷河期の芸術とシャーマニズムの関連性はこれまでも指摘されてきましたが、彼女はデータベースを頼りに幾何学記号がこのスピリチュアルな信仰によって描かれたものかどうか、を検証します。

これはデータベースを構築したからこそ初めて可能になったこと。「面白そうだけど、しょせん分かりっこないから」と投げ出さずに、地道に研究をする。科学の研究は「やられていないことをやる」のが基本ですが、難しい問いに果敢に、かつ地道に迫る彼女のアプローチは高く評価できます。

ペッツィンガーの研究の一端を紹介したTEDトークは世界で225万回視聴されていると聞きました。人類学の専門家以外にも関心が広がっています。

ラスコー洞窟の非常に躍動的な動物画もそうですが、氷河期の人類の思考や芸術には本当に驚かされるものがあります。彼らの高度な思考に触れることで、数万年前の人類は"原始人"だったというイメージがきっと覆されることでしょう。人類の起源に触れることで視野を広げてみてはいかがでしょうか。

海部 陽介 国立科学博物館・人類史研究グループ長

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かいふ ようすけ / Yosuke Kaihu

人類進化学者。1969年東京都生まれ。東京大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。理学博士。1995年より国立科学博物館に勤務し、現在は人類史研究グループ長。人類がアジアに拡散していった過程について、遺跡や人類学・科学分析から検討し、日本に辿り着いた祖先についてまったく新しい仮説を提示した『日本人はどこから来たのか?』(文藝春秋)がベストセラーに。その実証実験として、実際に古代舟をつくって台湾から琉球列島への航海を行う「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」を今夏、与那国島~西表島間で開始し話題を呼ぶ。国立科学博物館で現在開催中の「ラスコー展」(~2017年2月19日)の監修を務める

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