文字を失った中国少数民族「ユグル族」の正体 その存在は中国でもあまり知られていない

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金色の屋根を持つ立派な寺に白い仏塔や、カラフルな仏旗は、チベット仏教の特徴だが、ユグル族はチベット人ではない(写真: Adam Dean / The New York Times)

真紅の袈裟に身を包んだ若い僧侶が、忙しそうに寺の中を歩き回っている。地元住民を見つけては足を止め、近く行われる祭祀の説明をする。

外では眼鏡をかけた高齢の僧侶が腰を下ろして休憩していた。ちょうど昼寝から目覚めたところだ。朝の勤行に参加したら疲れてしまってねと、86歳の老僧は言う。

その寺に常駐しているのは、若いほうのナンチアンだけ。老僧のルオザンダンバは一時的に滞在しているにすぎない。つまりこの山間の町で、ナンチアンは地元の伝統的な宗教を守る責任を一身に背負っている。

ここは中国北西部・甘粛省の中央部に位置する粛南ユグル族自治県の中心地。紅湾寺鎮という町の名前は、ナンチアンが守る紅湾寺に由来している。金色の屋根を持つ立派な寺に白い仏塔、それにカラフルな仏旗は、いずれもチベット仏教の特徴だが、ナンチアンたちはチベット人ではない。

この町の住民たちは、中国共産党から少数民族の認定を受けたユグル(裕固)族だ。テュルク語系のウイグル族とつながりがあるが、ウイグル族はイスラム教スンニ派を信仰し、北京政府の支配に対する激しい抵抗運動を展開する民族というイメージを持たれがちだ。

「(紅湾寺鎮の)住民はみな仏教徒だ」とナンチアンは語る。「今度の祭祀のために、周辺地域から多くの人が家族連れで集まっている。ユグル族では、今も宗教の与える影響が非常に大きい」。

もう固有の文字は失われてしまった

ユグル人の多くは遊牧民か、かつて遊牧生活を送っていた。今も町の外の大草原には羊の群れが見える(写真: Adam Dean / The New York Times)

ユグル族とウイグル族との違いは、宗教だけではない。ユグル族のなかには、アルタイ語系の言葉を話す人たちもいる。見た目はモンゴル人に似ており、多くの家族は遊牧民か、かつて遊牧生活を送っていた。彼らは今も家畜の番を仕事にしており、町の外の大草原には羊の群れが見える。

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