残念な上司は無自覚なパワハラに気づかない

若者を病気や死まで追い込む深刻な職場問題

しかしながら、厚生労働省がパワハラ対策のために開設した「あかるい職場応援団」というポータルサイトを見ると、代表的なパワハラが6類型掲げられているのだが、私の上司の行動は、「精神的な攻撃」の類型に間違いなく当てはまる。

同サイトでは、精神的な攻撃についての説明文の中で、次のように明言している。

「やめてしまえ」などの社員としての地位を脅かす言葉、「おまえは小学生並みだな」「無能」などの侮辱、名誉棄損に当たる言葉、「バカ」「アホ」といったひどい暴言は、業務の指示の中で言われたとしても、業務を遂行するのに必要な言葉とは通常考えられません。(厚生労働省ホームページ「明るい職場応援団」より引用)

上司が指導だと思って行っていることが、法的な基準に照らし合わせると、違法なパワハラに該当するということである。

電通で自殺した高橋さんも、彼女が残したSNSの投稿によると「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」と言われたり、長時間労働をさせておきながら「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」と言われるなど、上司から「精神的な攻撃」を受けていたことが推測される。

高橋さんの上司の場合も、「この程度の叱責は教育の範囲である」という認識を持ち、パワハラを行っていたという自覚は無かったのかもしれない。無自覚だったとしたら、それがやはり大きな問題になってしまった。

上司の成功体験や苦労話が原因に

第2は、「無自覚な無茶振り」である。

上司となる立場の人は、過去に何らかの成功体験を持っていて、それが評価されたからこそ、「上司」という部下を持つ職位に就いていることが通常である。

私もサラリーマン時代に上司から「私は若いときにこういう仕事を達成した」とか「こういう難しい状況を乗り切った」という話を聞くことは何度もある。私個人としては、上司の成功体験や苦労話などを聞かせてもらうのは好きだったし、大いに学ばせてもらい、自分の仕事の糧にしてきた。

だが、社会保険労務士として仕事をするようになってから気が付いたのは、上司の成功体験や苦労話が、実はパワハラの原因になっている場合があるのではないかということである。

どういうことかと言うと、多くの場合、上司は自分の経験を基に部下を指導しているが、上司と部下は別の人間であるため、上司が若い頃に乗り越えたことでも、部下にとってはそれが無茶振りになり、最終的にはパワハラにつながってしまうおそれがあるということである。

上司は自分の経験から「当然できるはずだ」と思っていることを部下が達成できないと「なぜ、できないんだ」と感情的に叱責したり、「できるまで戻ってくるな」とか「絶対できるからあきらめずに喰らいつけ」というようなハッパのかけ方をしてしまったりして、部下がどんどん追い詰められていくという構図が成立する。

電通の高橋まつりさんの場合も、SNSの書き込みによると「休日返上で作った資料をボロくそに言われた」ということであるが、そもそも、入社1年目の社員に完璧な資料を作れと言うのが無茶振りである。

入社1年目で、しかも新卒では、会社のことや取引先のことなど、仕事の全体像がまだまだ見えていないであろうし、ビジネスで通用するロジカルな資料を作るのは、OJTで時間をかけて経験を積んでいくしかない。

そのような状況の中、「ボロくそ」に言われてしまうと、中には「畜生、上司を見返してやる」という強い気持ちで負けずに上司の暴言を跳ね返す人も中にはいるだろうが、多くの人は、高橋さんと同じように追い詰められてしまうのではないだろうか。

次ページ悪ふざけをしているつもりでも、パワハラになる
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