残念な上司は無自覚なパワハラに気づかない 若者を病気や死まで追い込む深刻な職場問題

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現在はセクハラ同様に社会問題化するパワハラをめぐって、裁判に発展することも珍しくなくなった。「企業における人権研修シリーズ パワー・ハラスメント」は2010年3月に発行された資料だ。これだけパワハラを防止することの重要性が声高に叫ばれたのはつい最近の話でもない。にもかかわらず、なぜ、このようなパワハラによる若手社員の自殺が後を絶たないのであろうか。そして自殺にまで至らなくても、精神を病み、休職を余儀なくされた若手社員も少なくないだろう。なぜパワハラ上司はいなくならないのであろうか。

この点、パワハラの加害者となる上司に、「加害者意識がない」ことが問題だ。私自身のサラリーマン時代の体験からもそう感じたし、現在、社会保険労務士として実務を行っている中で出会う事例や判例などを鑑みると、そのように結論づけられる。上司は自分の行動がパワハラだということを自覚しておらず、当該行動に対し「指導」「教育」「遊び心」といったような認識を持っているため、被害者である部下の心の痛みに気が付かないケースが多いようなのである。

本稿において、このようなパワハラを「無自覚のパワハラ」と呼ぶことにしよう。「無自覚のパワハラ」を類型的に整理すると、以下の3つのパターンが代表的だ。

「成長を思って厳しくしている」パワハラ上司

第1は、「無自覚な言葉の暴力」である。

私のサラリーマン時代の経験を振り返ると、何人かの上司のもとで働いたが、強烈なパワハラ上司にも仕えたこともあった。

当時私は事務系の仕事をしていたので、上司から指示をされた資料をパワーポイントやエクセルなどで作成して上司に提出していたのだが、上司の求める水準に達していなかった時、「君は日本語がわからないの?」「本当に日本人?」「小学校からやり直したほうが良いんじゃないの?」とまくしたてられ、その勢いに黙ってしまうと「もしもーし、聞こえてる?なんか言ったらどう?」と畳みかけられたことが度々あった。

上記のような叱責を、会議室ではなく、オープンな打ち合せスペースで受け「さらし者」にされたこともあった。

この上司は、「君たちの成長を思って厳しくしている」と言っていたし、上司自身、仕事には真摯な姿勢で取り組んでいたので、人間的に好きにはなれなかったが、尊敬できる部分もあったことは事実だ。だから、上司に「あいつのことが嫌いだから罵声を浴びせて精神障害に追い込んでやろう」というような故意があったとは考えていない。

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