残念な上司は無自覚なパワハラに気づかない 若者を病気や死まで追い込む深刻な職場問題

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第2は、社内の相談窓口を機能させることである。

電通の高橋さんにせよ、佐川急便の男性社員にせよ、自殺をしたことで大きなニュースとなり、会社も事の重大性を認識したということだ。自殺する前に、会社は上司にパワハラをやめさせることができなかったのか、ということが悔やまれる。

電通のホームページには、CSRの一環として、「ハラスメント相談課」という相談窓口があることが紹介されていたが、高橋さんはそこに相談をすることができなかったのだろうか。あるいは、相談したがパワハラは解決しなかったのであろうか。この点、もしかすると相談窓口が形骸化してしまっていたのかもしれない。

電通に限らずであるが、社員集会などで相談窓口があることをしっかりとアナウンスしたり、相談することによる人事考課上の不利益は無いので安心して相談するよう社員に伝えていくことが重要であると考えられる。

そして、相談窓口の担当者は、どのような行為がパワハラになるのかをしっかりと勉強し、客観的な立場で相談に応じられるようにすべきである。相談窓口の担当者まで「それは、当社の文化なので仕方がない」とか「もう少し我慢してはどうですか」ということを言ってしまったら、もはや「会社ぐるみの無自覚のパワハラ」である。

トップが社内の空気を変えていく

第3は、経営トップ自らが、「パワハラは許されるものではない」ことを宣言し、社内の空気を変えていくことである。

上述した「相談窓口」の件にしても、社内報で「相談したことによる不利益はありません」と書いたり、人事担当者あたりが「何かあればハラスメント相談窓口を活用してください」と言ったりするだけでは不十分だ。社員としては「そうは言っても、本当のところは……」とか「相談した結果の報復が心配だ」ということで、なかなか相談に踏み切れないのが通常の心理である。

そういった社員の不安を一掃するためには、経営トップが「ハラスメントを撲滅するのが当社の経営方針である」と宣言し、実際にパワハラやセクハラが発生した場合には、厳正な事実調査を行ったうえ、ハラスメントが事実であれば、加害者に厳正な処分を行うことが求められる。

そうすることで、上司たる立場の幹部社員には「会社はハラスメントの防止に本気であるので、私も気を付けよう」という自覚を持たせ、一般社員には「会社はちゃんとパワハラを取り締まってくれるので、安心して相談できる」という、本当の意味で機能する相談窓口を提供できる。相談窓口を社内だけでなく、顧問弁護士事務所など社外にも設置すると、より相談がしやすい環境が構築されるであろう。

管理職研修の実施や、相談窓口の設置には、コストも時間もかかる。だが、今回の電通や佐川急便のように、パワハラによる自殺者が出て、それがニュースで報道されたりすると、企業イメージが損なわれ、求人に影響が出たり、顧客離れや、コンプライアンスを重視する取引先からは、取引を停止されたりするかもしれない。上場企業であれば株価への影響も懸念される。現在はインターネット社会であるから、「悪事千里を走る」にとどまらず、悪評は瞬時に日本中へ広がってしまうであろう。

パワハラは、決して会社の末端での人事トラブルではなく、経営レベルにおいて対応しなければならない重要なテーマである。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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