生煮えの印象強い「自民党改正草案」 中身よりも実績づくりが狙いか

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改正要件を定めた憲法第96条の先行改正を公言していた安倍首相は、5月3日の憲法記念日を境に、発言をトーンダウンさせているが、持論の憲法改正実現への意欲は、もちろん健在だ。

改憲案の発議・提案には、参議院でも総議員の3分の2の賛成が必要という「参議院の壁」が高い。96条先行改正論を主張したのは、改正要件を緩和すべきという基本姿勢だけでなく、同じ96条改正論の日本維新の会の取り込みに有効と判断したのだろう。

ところが、維新との連携で、一つ大きな問題がある。改憲について、維新は日本の統治機構の改革を最優先テーマと位置づけ、一院制または衆議院の優越の強化、首相公選制、道州制、地方自治の拡充などを唱える。安倍首相が想定する憲法案は去年4月に自民党が決定した「日本国憲法改正草案」だが、これを見ると、二院制の維持、衆参の関係は現状のまま、首相公選制や道州制は不採用で、統治機構改革には事実上、「ゼロ回答」だ。

6月7日、自民党憲法改正推進本部事務局長で改正草案の起草委員長の中谷元防衛庁長官に会ってその点を尋ねたら、「一院制論も議論したが、結論が出なかった。参議院の反対論もあって簡単にはいかない。じっくり時間をかけなければ」と明かした。維新とは96条の変更で一致しても、改憲の中身で大きな隔たりがあり、足並みは揃いそうにない。

96条について、安倍首相は「厳しい改正要件は国民の憲法改正の権利を束縛し、国民主権の点でも問題」と説く。だが、国民主権を強調するなら、改憲案の発議・提案権を国会だけに認めるのではなく、本来、国民の側からの直接請求というやり方にも道を開くべきだが、自民党の草案は現行憲法と同様に、発議・提案権の衆参両院の独占を維持している。

自民党の改正草案はこれからの議論の叩き台としては意味があるかもしれないが、生煮えの未完成品の印象が拭えない。安倍首相がこの案で改憲実現と本気で考えているとすれば、中身よりも「とにかく改憲実現」という実績づくりが狙いでは、と疑いたくなる。

(撮影:尾形文繁)

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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