森ビル優先株「300bp」を読み解く

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森ビル優先株「300bp」を読み解く

米国でベアー・スターンズが救済され、国内でもCDSスプレッドが急速にワイド化した3月中旬。大手不動産会社の森ビルによる優先株発行が注目された。

発行額は未上場企業としては「おそらく過去最大規模」(主幹事証券)とされる1100億円。引受先は同社のメインバンクであるみずほコーポレート銀行(300億円)、三井住友銀行(100億円)、三菱東京UFJ銀行(100億円)の3行を中心に、日本政策投資銀行(100億円)、あおぞら銀行(100億円)、それに地銀や生保など、国内の機関投資家30社弱だったもようだ。

MID都市開発の上場延期など、不動産関連ファイナンスが不安定になっている中、配当率などの発行条件も目を引いた。優先株は固定、変動金利の2種類を発行。いずれも普通株式への転換権はなく、変動型優先株の配当率は2013年7月までがユーロ円12カ月LIBOR+300bp。それ以降はL+420bpに上昇する。固定金利は当初5年が4・272%だった。

森ビル本体の格付けはシングルAマイナス。本優先株の格付けはトリプルB(いずれも日本格付研究所)。優先株との違いはあるが、2月に発行された住友不動産の永久劣後ローンは、当初5年は3カ月日本円Tiborに1・1%のスプレッドが乗っている(JCR格付けはトリプルB+)。資本性評価が75%であることを考慮しても、300bpの調達コストは高いと言えそうだ。

しかし、森ビル側は「このコストで集まるか心配だったが、証券会社が頑張ってくれた。社債よりコスト高でも適正なプライスだった」(財務担当の堀内勉常務)とむしろホッとした様子だ。森ビルの連結当期純利益は232億円(08年3月期、会社予想)。これに対し、優先株配当率は、直利に直すと約4%。税引き後の利益にかかる年間40億円強の優先株配当負担は決して軽くない。まして、ステップアップ後の420bpの配当負担水準は資金使途となるプロジェクトのリターンを考えると、おそらくコスト割れに近いはず。「『400~500bpないと…』という声もあった」(関係者)というが、直利にして5~6%のCDOやCLOなど、スプレッドのワイドな証券化商品を見慣れた投資家に、「未上場」の「不動産会社」の「ハイブリッド証券」は、物珍しく映ったようだ。

資本性評価は50% 厳しくなる銀行の目線

優先株と言いつつも、5年後のコール条項がついている点を考えれば、その性格は5年償還の社債に近い。「5年後に本当に償還するのか」。純投資として優先株購入を考えた投資家の関心も、会社側がアナウンスした5年後のリプレースメントの蓋然性に集中した。格付けをつけたJCRは「破綻時の回収順位が劣後するなど資本性もある」として、この優先株の資本性を50%と認定。会計上は全額資本勘定に計上され、自己資本比率は20%強にカサ上げされたとしても、格付け会社の評価はそのうちの半分しか資本として認めないというわけだ。

昨今不動産業界に対する銀行、金融庁の目線は厳しくなる一方だ。森ビル連結の有利子負債は07年3月末で8181億円。銀行借り入れの絶対額自体巨額であるうえ、開発のスピードをこれ以上上げるなら、間接金融頼みでバランスシートを膨らませるのはもはや限界に近い。300bpには発行体の信用力が織り込まれたということもできる。

近年、森ビルは資金調達手段の多様化を進めている。06年のシ・ローンに続き、やや意味合いは異なるが、07年10月には森一族のファミリー会社である「森喜代(株)」「森磯(株)」「森シティコーポレーション」(旧森ビル設計研究所)の大株主3社を割当先に普通株を発行。資本金を10億円から100億円に引き上げた。

そして、優先株。初めて市場に向き合った経験を生かし将来の社債発行も視野に入る。優先株では流動性プレミアムの陰に隠れて見えにくかった市場による信用力評価は、社債では一層鮮明になるだろう。
(金融ビジネス)

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