東芝と日立、なぜ両巨艦の明暗は分かれたか 世間が決める「成功」にとらわれるな

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そして「サラリーマン」という仮面のゲームの世界に否応なしに入っていくことになります。「仮面」ゲームをやっているからこそ、『沈まぬ太陽』や『半沢直樹』的なドラマが盛り上がるのです。冷静に考えれば実にくだらない、生身のリアリティもない、単なる出世ごっこ、派閥争いごっこです。そのゲームのために体を壊したり、家庭を壊したり、しまいには命を落としたりする人は、今日現在も後を絶たない。

運良く出世競争に勝っても、いつかは会社から離れます。そうなると単なる冴えない初老のオッサンです。内館牧子さんのベストセラーに描かれた『終わった人』として過ごす何十年もの時間が待っている。

みんな一緒の価値観など存在しない

そこまで来て多くの人が気づく。「いったい自分は何のためにこんなに頑張ってきたのか」と。必要なことは、仮面を脱ぎ捨て、建前を捨て、自分の尺度を見つけることです。日本はすっかり豊かになって、みんな一緒の価値観など存在しないのです。まだ心が柔らかなうちから、自分はなんなのか、自分にとって幸福感とはなんなのか、考える力を養わないといけない。

どんな時にうれしいと思ったり、どんなときに居心地が悪かったりするのか、どんな時に達成感が得られるのか、そういうことをしっかり理解する。趣味の世界に逃げることなく、自分のメインの人生、職業人としての人生を真正面から見つめる。どういう仕事をしている状態を幸福と感じるか、今のままで本当にいいのか、真剣に考える。

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社会的な成功、世間が決めた成功にまったく関心がない人がいます。自分の尺度がちゃんとある人です。一方で、世間様からより一層「立派だね」と認められることに感応しそうな人たちもまだまだいる。だから東芝の事件は起きた。

日立の大改革を成功させた川村隆さんには、東芝の権力者が渇望していた某財界ポストを頼まれたのに断ったといううわさがあります。「自分の人生にはもっと大事なことがある」と。社内では尊敬され、慕われていたと思いますが、相談役もスパッと辞められました。真相は定かではありませんが、本当だとするとめちゃくちゃおしゃれです。

日本も明らかにムードが変わってきています。煩悩をダサいと思う人たちが増えてきている。世代が下れば下るほど、新しいムードは強くなっています。早く自分なりの尺度をつくっておくことです。それができれば、人生はまったく違うものになると思います。

(構成:上阪徹/ブックライター)

冨山 和彦 経営共創基盤(IGPI)グループ会長

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とやま かずひこ / Kazuhiko Toyama

経営共創基盤(IGPI)グループ会長。1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学MBA、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。共著に『2025年日本経済再生戦略』などがある。

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