アップルですらクールで居続けるのは難しい 日本の製造業はもっと大胆に発想転換せよ
アップルの再生とその後の大きな成功は、綿密なマーケットリサーチによって、戦略的に生み出されたわけではありません。ジョブズという天才、ユビキタスという新しい時代の流れが組み合わさって今がある。これは、ほかの急成長企業にも同じことがいえます。ネット時代がやってきて、ヤフーの出現でこの領域の勝敗は決したかと思えば、グーグルがやってきて、さらにはフェイスブックがやってきた。これで終わりとは、誰も考えていない。
今、大きな恐怖を感じているのは、フェイスブックではないでしょうか。自分たちがのしあがってきたプロセスを再びマネージすることはできないからです。官能性で戦っていくビジネスでは、“デザイナー”たる“王様”が必須です。創業経営者でなくても、です。しかし、ある官能的センスが支配できる時間的、空間的な広がりはそれほど大きくはありません。
思えばファッションの世界でも、時代、時代に新しい才能が必ず飛び出してきました。エンターテインメント産業も同じです。この世界でクールであり続け、勝ち続けることは、極めて難しいことなのです。確実なことは何もない。そういう世界で、繰り広げられている戦いなのです。
今の日本のビジネスはクールではない
ひるがえって、では日本企業はどうなっているのか。経済産業省主導でクールジャパン推進機構という組織がつくられています。しかし、少なくとも日本企業が理解しておかなければいけないことがあります。それは、今の日本のビジネスは、ちっともクールではないということです。
世界的な時計ブランドがひしめくスイス。しかし、スイスの今は、日本のメーカーに追い詰められた結果でもあります。かつて時計は、いかに正確か、という精密機器の機能競争の世界でした。それを一変させたのが、クォーツの登場。私が中学生の頃です。
ここから時計の世界は、大量生産ゲームに変わってしまいます。そして日本メーカーが世界を席巻していく一方、スイスが生き残りのために選んだのが、機能追求から、官能訴求、付加価値訴求への方向転換でした。そして今、何が起きているか。スイス製なら1000万円の時計だって平気で売れてしまう、という現実です。極めて利益率の高いビジネスが展開できているのです。
これは時計に限りません。戦後の日本の成功は、機能的価値のコストパフォーマンスを追求することによってもたらされました。自動車しかり、電子機器しかり。そして日本勢の勃興で、欧米のメーカーはじわじわ追い詰められていきました。
今、日本がかつての欧米と同じように新興国勢から追い詰められています。ところが、日本企業は量とコストと安売りから抜け出せない。一方で、ヨーロッパ勢と一部のアメリカ勢の独壇場である官能訴求、付加価値訴求のマーケットでもほとんどダメ。世界的に中途半端なポジションにいるのです。
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