「ノート7」の発火事故は対岸の火事ではない リチウムイオン電池の宿命=燃えやすい
サムスンが10月7日に発表した7~9月期決算の速報値は、売上高が前年同期を5.2%下回る49兆ウォン(約4兆5000億円)。営業利益は5.6%増の7兆8000億ウォン(約7200億円)を確保したが、前四半期からは減収減益。来期はさらに業績全体への影響が懸念される。バッテリー問題に関連した損失は1兆ウォン(約920億円)と見積もられていたが、韓国・中央日報によると再度の問題発生により180万台の回収・交換などにかかる直接の費用だけでも3兆ウォン(約2800億円)に上ると見られている。
しかし、業績への影響は直接的な対策費用の発生にとどまらない。この年末にもっとも期待されていた主力製品の喪失と、ブランドやメーカーに対する信頼感の喪失という、“ダブルの喪失”は、業界全体のダウントレンドと併せ、サムスンをさらに厳しい立場に追い込むかもしれない。
「燃えやすい」リチウムイオン電池
今回の問題は、携帯型の電子機器が宿命的に背負っている運命を物語っている。
リチウムイオン電池はその性質上、電子機器を構成する主要パーツの中で、唯一と言ってもいいほど「燃えやすい」パーツだ。構造などによって派生種(リチウムポリマーなど)はあるものの、バッテリー内に有機溶剤を用いているため、過熱などの条件が重なると燃えやすい性質を持っている。無機溶剤が用いられる他の二次電池との大きな違いだ。
リチウムイオン電池の歴史は性能や機能性を高める歴史でもあったが、同時に、有機溶剤を用いながらもいかに安全に運用するか、創意工夫の歴史でもあった。リチウムイオン電池は、乾電池やニッケル水素電池のように、バッテリーセル単体での販売が行われないが、これは充電制御やセルの保護など、システムとパッケージ全体で品質保証を行う必要があるからだ。
このため、過去にも発火事故は何度も発生している。バッテリーセルの生産後、事前充電を行う工場で爆発事故が発生したこともあった。パソコンにリチウムイオン電池が使われ始めた1990年代後半には、いくつもの製品が発火事故を起こしている。ひとたびセルの生産工程に問題が起きると、2006年のソニー製バッテリーを搭載したパソコンが(全種類ではないが)発火の可能性あって回収になるなど大きな問題に発展する。
当時はバッテリーパックを本体と切り離して脱着できる設計が一般的だったがため、バッテリーの回収・交換は比較的容易だったが、製品と一体化されるのが当たり前になってきた昨今のデジタル製品では、本体ごと交換せねばならない。年末商戦の主力製品の離脱は可能なかぎり避けたかったはずだが、製品の完全な生産停止という選択は、事の深刻さを示している。
そして、この“深刻さ”は単にノート7だけの問題にとどまらない、ブランド価値への影響もある。
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