「36協定」と「働き方改革」の議論は切り離せ 命を守ることと社会の活性化は別次元だ

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継続的に月80時間以上の残業をした場合、過労死のリスクが上昇することが知られており、労働者の命を守る意味で労働時間に上限を設けることは先進国としては当たり前だ。法律上の労働時間に事実上の上限がない状態は、例えるなら、健康を損ねる可能性の高い薬物の使用を国が黙認しているようなもの。その意味で「36協定」の見直しは喫緊の課題だ。過労死を防ぎ、労働者の健康的な生活を守るための「長時間労働の是正」である。

社会を活性化するための「長時間労働の是正」

一方で、「ニッポン一億総活躍プラン」の中に出てくる「長時間労働の是正」には、女性が活躍しやすい社会にして総労働力を増やそうという狙いがある。体力勝負にならない働き方を実現する、子育てしながらでも働ける労働環境を整える、男性も早く帰宅して家事や育児をすることで女性への負担が減らせるなどの効果が理論上は期待できる。しかしこの場合、1日何時間までの労働時間にすれば効果が表れるのかはっきりしない。

たとえば月80時間以上の残業を禁じた場合、過労死を防ぐ効果はあっても女性の活躍という意味での効果はごく限定的だろう。単純な話だ。日本の正社員の1日の平均労働時間は約8時間40分だと言われている。計算が面倒なので、ここでは約9時間とする。残業時間の上限が月80時間に規制されたところで、1日約4時間の残業はOKということだ。9時から17時が定時の仕事であっても、退社時間は21時ということ。1日9時間だった労働時間が短くなるわけではない。そこから育児なんて間に合わない。皿洗いや風呂掃除くらいは可能だが、できることは限られる。

つまり、同じ「長時間労働の是正」であっても、労働者の命を守るための最低限の基準を定めることと、社会を活性化するためにあえて労働時間を抑制することとでは次元が違う。目指すべき労働時間の長さもまるで違う。であるならば、優先順位としては労働者の命を守るほうが先だろう。その際社会の活性化のための「働き方改革」は論点から外したほうが議論はシンプルになる。

気をつけなければならないのは、「働き方改革実現会議」で「36協定」の見直しを検討した結果、過労死を防ぐうえでは意味があるけれど、夫婦そろって仕事と家庭を両立するうえでは不十分といえる「中途半端」な落としどころで話がまとまってしまい、それなのに「ほら、これで仕事と家庭が両立できるでしょ。あとはやってね」となること。それでは「ゆとり教育改革」と同じ轍を踏むということは「「働き方改革」に見える「ゆとり教育」と同じ轍」(10月6日配信)で触れたとおりだ。

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