「過労死白書」から見える、長時間労働の実態 「残業代も出ない!」NPOには相談が続々

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 相談例を見ても、月100時間を超える残業が常態化している業界が多いことは、明らかだろう。しかも、適正な手続きを経ず、対価である残業代さえまったく出ていないケースも散見されるという。

こうした長時間労働の理由について過労死白書はどのように分析しているのか。「所定外時間が必要となる理由」における企業調査の箇所を見ると、「業務量が多い」「人員不足」「顧客対応」が圧倒的に多い。つまり、長時間労働は労働者の「生産性の低さ」が問題ではないことが示されている。「労働時間の法整備や、いっそうの企業の自主努力が必要」(今野氏)であることは明らかだ。

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平成28年版過労死等防止対策白書 56頁より

奇しくも白書が閣議決定された10月7日には、広告代理店大手の電通の女性社員(当時24歳)が、最長月130時間の残業などが原因で昨年12月に自殺し、三田労働基準監督署が過労死として労災認定していたことも明らかになっている。実は、今から25年前の1991年にも、ほとんど同様の事例があった。

当時24歳の同社の男性社員が、100時間を超える残業を継続的に行ったことから鬱病を発症し、入社からわずか1年5カ月後に自殺に至ったのだ。徹夜での勤務もあり、帰宅しても2時間後には出勤するという状況もあったと裁判で認定されているのだが、今回の件も類似性が見て取れることに、POSEEの今野氏は憤りを隠さない。

「過労死・自殺を出した企業に典型的だが、『よその会社でもやっている』『なぜ自分たちだけが問題になるのだ』『死んだ側に問題がある』などと考えがち。そのようにして自己正当化し、外向けにだけはコンプライアンスを強化したふりをする。このような構図は広告業界だけではなく、外食や小売り、不動産などに広く見られ、彼らに共通する論理は、『ついてこられなかった方が悪い』に尽きる」。

長時間労働がメンタルヘルスに大きく影響

今回の事例は様々な事情から世間の注目を集めているが、もはや業界の慣習など、構造的な問題のようにもみえる。職種によっては、時間を気にすることなく全力で働くことで、自身に大きなリターンが期待できる会社もあるだろう。しかし、それはあくまで例外的な位置づけにするべきで、「社会人になれば、誰しも長時間労働が当たり前」という文化は根絶するべきだ。10月7日に行われた記者会見で、女性社員の母親が訴えた、「命よりも大切な仕事はない」という言葉は重い。

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平成28年版過労死等防止対策白書 12頁より

働く本人の自覚の問題もあるが、責任感が強く、まじめな人ほど、会社内部の論理を真に受けて、追い詰められてしまいやすい。過労死白書でも、仕事に関するストレスの原因について、「仕事の量・質」が65.3%と、「対人関係」の33.7%にダブルスコアに近い差をつけ、1位になっている。

欝状態になってしまえば、冷静に自分の状況を客観視することも難しくなるし、そこにプライベートで思い通りにいかないことが重なったりしてしまえば、逃げ場がなくなってしまう。厳しい状況に置かれている人には、「仕事から逃げることも、決して間違った選択ではない」という認識を得させる機会を作るため、本人に外部との接点を持たせるようサポートすることが重要だろう。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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