「アニメで町おこし」の壁が高すぎる根本理由 作品舞台になった「聖地」の数に地域格差も

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現地に住んでいれば別の評価もあるのかもしれないが、前知事の東国原知事はよくやったと思う。それまでは神戸牛の下請けに過ぎなかった宮崎牛を一流ブランドに引き上げたのは、元タレントとしてのセンスをうまく活用したからだと思う。

『らき☆すた』の鷲宮神社が今も人気の理由

アニメ作品で描かれた場所に実際に行く、いわゆる「聖地巡礼」の歴史はどれぐらいあるのだろう。筆者がそういうものがあるんだと意識したのは、2007年頃にアニメ放映された「らき☆すた」あたりだったろうと思う。埼玉県春日部市が舞台となった作品だ。

聖地巡礼をサポートする「アニメツーリズム」というサイトによれば、アニメ由来の聖地と呼ばれる場所は、現在11378箇所も登録されている。このうち日本国内は10937箇所である。

アニメツーリズム 聖地まとめマップ

都道府県で見ると、ダントツに聖地が多いのは東京で、4132箇所。宮崎県に至っては、5である。佐賀県の2よりはマシだが、目くそ鼻くそレベルだ。これではアニメで町おこしなど、夢のまた夢である。

ただ、実際にアニメでうまく町おこしできたところは、実際にはそれほどないだろうと思われる。その理由のひとつは、実際の地域の人たちがせっかく訪れるアニメファンを「客」としてではなく、「異端者」として扱ってしまうだろう。

なんの名物もなく、お祭りなどのイベントでもないのに突然休日になると人がわんさか集まってきたら、誰だって不審に思う。こうして、受け入れ準備もできていない状況で人が殺到し、ようやく理解できた頃にはブームは去ってしまっている。このアンテナ感度のズレは、いかんともしがたい。

地方から仕掛けたブームが、いわゆる「ご当地ゆるキャラ」だったわけだが、これもやはり一過性のものだ。基本的にコンテンツは消費される運命にあるので、これが長続きすると考える方がおかしい。

長続きするのは、当たり前だが「すでに長く続いているもの」である。短期的なブームを、それとお見合いさせなければならない。たとえば地元の名物の食べ物とか、お祭りとか、海、山、川といった自然資源でもいい。アニメにも描かれているであろうそれらを、アニメ抜きでも気に入ってもらえるよう、ホスピタリティも含めてよい状況にあったところは、結果的に町おこしが成功している。

先の『らき☆すた』の鷲宮神社は、アニメ放映から10年が経とうとしているが、未だに初詣には大勢の人が押しかけるし、イベントを打てばまだまだ人がやってくるという。それはアニメの魅力が10年続いたということではなく、鷲宮神社自体が素晴らしいことに加え、コスプレでの初詣やアニメ画の絵馬奉納も不謹慎などと言わず許容する度量などが重なってのことだろう。

人の動きというのは、そうそううまくコントロールできるわけではない。ましてやアニメ作品の世界を理解して地元で待ち構えとけというのは、どだい無理な話だ。そもそもその地域の人が「へえーそういうことで来たの。まあ何にも無いけどゆっくりしていきなさい」と暖かく受け入れるような人たちが揃っているか、「ちょっとあんたたちなんなの。困るんだよねーそういうの」という態度のひとたちが主流か、その時点ですでにもう勝負は決まっている。

地元の人の態度がコントロールできない以上、「アニメで町おこし」もまた、コントロールできない。要するに、それだけの話なのではないかと思う。

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小寺 信良 映像技術者、コラムニスト

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こでらのぶよし / Nobuyoshi Kodera

コラムニスト/映像技術者/インターネットユーザー協会代表理事。1963年宮崎県出身。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、ライターとして独立。AV機器から放送機器、メディア論、子供とITの関係まで幅広く執筆活動を行う。主な著書に「Ustreamがメディアを変える」(ちくま新書)、「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)など。WEBではAV Watch、ITmedia、価格.com にてコラムを好評連載中。夜間飛行より毎週金曜、メールマガジン「金曜ランチボックス」を発行中。

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