そんなテツさんが開店した席数4つの小さな美容室には「mano a mano」、イタリア語で「手と手」という意味の名前がついています。テツさんがイタリア語を話すのは聞いたことがありませんから、どなたかの入れ知恵でしょうが、手作り感を大切にしたいという思いが込められています。初めて持つ自分の城ですから、予算の許す範囲で内外装にもテツさんの価値観が反映されており、どことなく地中海風の小じゃれた感じに仕上がっています。
集客は広告に頼らず、中国人顧客からの推薦で自然にお客様が広がっています。彼の話によると、ほかの日系美容院は中国人客比率が約70%ですがテツさんの店では80%と、中国人比率が高いのが特徴です。
値段は、カット330元(1元は約16円)、カラーが520元~、パーマが780元~と、日系美容院としてもやや高めの設定ですが、中国人のプチ富裕層にとって価格は問題ではありません。
経営者はつらいよ~難題が次から次へと
独立事業主となったテツさんは事業の損益管理に加えて、さまざまなリスクに対処しています。水道や電気の不具合、家主からの突然の立ち退き要求、公安の来訪など、中国でお店を持つ皆さんが悩まされるカントリーリスクに立ち向かっているのです。
お客様の気ままな行動も困りものです。予約時間どおり現れる人は少数派。予約のお客様がなぜか3人ぐらいの団体で来店するのは日常茶飯事です。中国人は友達同伴で来るのが好きなようで、友達はというとわが物顔で待合スペースを占領して、雑誌を読んだりスマホをいじったりしてくつろぎます。勝手にトイレを使い、水を飲み、スタイリング中の友人とおしゃべりし、お店にとってはとんだ迷惑ですが、追い返すわけにもいきません。
また、飲食店同様にローカルのお客様のニーズにどこまで対応するかが悩みどころです。
日本人需要に合わせていると、中国人顧客のニーズが満たせなくなります。北京の女性は髪を大切に長く伸ばしている人が多く、バッサリとショートにしたり、ボリュームを減らすために「梳く」ことを嫌がります。しかし、髪質が健康で重量感がある人が多いので、すいて軽くしないとパーマをかけてもきれいなウエーブが出ません。日本式を重視して日本で受けるスタイリングばかり勧めていると、中国人顧客のニーズに合わなくなってしまいます。
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