金持ちが、なぜ毛沢東を崇拝するのか
尖閣諸島問題をめぐって昨年9月に中国で起きた反日デモで、多くの参加者が毛沢東の肖像画が掲げていたことを覚えているだろうか。
どうして、毛沢東が?――そう思った人も多いかもしれない。しかし、毛沢東は今、中国で「復活」しつつある。その事態を知らずして、今の中国を深く理解することはできない。
まず、われわれは毛沢東個人と毛沢東思想とを切り離さなければならない。毛沢東は中華人民共和国建国の最大の功労者であり、1960年代には文化大革命を発動して中国を混乱の渦にたたき込んだ。1976年に亡くなった後は毛沢東の過激な左派路線は次の指導者となった鄧小平に否定され、中国政治においては過去の人である。
だが、毛沢東が残した思想は死んでいない。毛沢東思想はいまも強烈に中国人のマインドに埋め込まれたままで、共産党の統治にとってはプラスマイナス両面ある両刃の剣となっている。
たとえば、反日デモにおいて、毛沢東の肖像を掲げることは反抗の象徴であった。毛沢東と反日はほとんどかかわりがない。ただ、毛沢東は文革で民衆が権力の異議申し立てを行う「造反有理」を正当化させ、自分以外の権力者を攻撃した。デモの参加者は、日本に対して弱腰に見える当局を毛沢東の名を借りて批判しようとしたのである。
その毛沢東思想の影響が、日本人が想像を超えたレベルで広がっているのが中国の大企業の経営者たちだ。その意味で、毛沢東は革命の「神」から経営の「神」に変貌しているとも言える。
たとえば、中国ナンバーワンの金持ちと言われ、杭州の飲料会社・娃哈哈(ワハハ)グループの創始者である宗慶後氏や、中国最大の電子商取引会社アリババ・ドットコムで会長を務める馬雲氏はともに、毛沢東のファンである。改革開放政策の中で起業し、中国有数の大企業に育て上げた超一流の企業人たちが、ことごとく毛沢東思想と自らの企業経営の深い結び付きを隠さない。
時代遅れに見える毛沢東思想のどこが、今日の企業経営に役立つというのであろうか。
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