名門トクヤマ、2000億円投資の悲しい結末 太陽電池バブルがはじけ、原料工場を売却
2度の巨額減損でマレーシア工場は償却負担がなくなったが、それでも現在の1キロ当たり十数ドルの市況下では、生産コストより販売価格が低い逆ザヤ状態だ。このため、今2016年度もマレーシア工場は数十億円規模の営業赤字が続く見込みで、依然として経営の大きな重荷となっている。
一連のプロジェクトを推し進めた当時のトップは、すでに昨年春に引責辞任。後任として会社の再建を任された横田浩社長にとって、このマレーシア工場をどうするかが最大の懸案事項だった。
「太陽電池用のシリコンは世界的に供給過剰構造で、さらに市況が悪化する可能性もある。経営のリスクを減らすためには、事業自体の売却が妥当と判断した」。東京本社で会見した横田社長は、売却に至った理由をこう説明した。社長に就任した直後の昨年半ばから売却に向けて動き、水面下で同業他社との交渉を重ねてきたという。
工場の売却価格は約100億円(9800万ドル)。投じた金額を考えるとタダ同然の値段だが、それでも売れただけマシだ。なにしろ、太陽電池用シリコン業界は軒並み赤字。「複数の企業に事業譲渡を打診したが、こんな市況下ではどこも設備能力を増やすことに消極的で、交渉は非常に難しかった」(横田社長)。
売却先に決まった韓国のOCI社は、太陽電池用シリコンの世界3位メーカー。地元韓国で大きな工場を操業し、低コストオペレーションに長けている。100億円程度で最新鋭の工場が手に入るなら、独自の効率化施策によって黒字化は可能と判断したようだ。
財務体質は大きく毀損
最大の懸案だったマレーシア工場の売却に踏み切ったトクヤマ。前期までに投資額のほぼ全額を減損の形で損失処理済みのため、売却に伴う追加損失は80億円程度にとどまる。株式市場は経営の大きな重荷が切り離されることを好感し、売却発表翌日の同社株価は16%も上昇した。
ただし、社運を懸けたプロジェクトの失敗で負った傷跡は大きい。2014、2015年度と2年連続の巨額赤字によって、2013年度末に約2300億円あった自己資本は前2015年度末に500億円台へ減少、40%前後だった自己資本比率も13%にまで低下した。今年6月には企業再生ファンドから200億円の出資を受けて資本増強を図ったが、かつての優良な財務体質にはほど遠い。
「今後は半導体用シリコンを始めとするコア事業に経営資源を集中しつつ、(ほとんどの品目を生産する)徳山製造所の効率化を進める。収益力を高めて、着実に財務の再建を進めていきたい」と横田社長は話す。マレーシアで負った大きな傷痕を修復すべく、トクヤマの地道な経営再建が続く。
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