井手:税金も年寄りから取れとか、あいつが無駄づかいしているから、まずあいつのを削れとか、人の悪口を言ったほうが得をする風潮になっている。
たとえば公共事業を批判したり、特殊法人や政府機関の無駄、公務員や政治家の給料や定員、そして生活保護をもらっている人、医療費、薬の値段などいろいろな所に「無駄づかい」のレッテル貼りをしてたたく。自分の所さえ守れればいいから、競って悪事を暴き、どんどん悪口を言う。税金もいかに自分が困っているかを主張して、「あいつにかけろ、あっちにかけろ」となる。
貧しい人たちを助けようとしたらしたで、「だってあいつらまじめに働いていないから自己責任だ」、と。お互いがお互いを袋だたきにするような状況が生まれている。それが分断社会と呼ばれる原因だと思います。
木本:それは、実質的にバブル崩壊後からそうなっていったのですか?
井手:もともとあった性格ですが、目に見えて明らかになったのが90年代の終わり頃からです。
木本:お笑い芸人もコンビが多いですが、コンビって仕事の調子がいいときは仲がいい。調子が悪くなると仲が悪くなって、お互いに責任をなすりつけあう。その構図とよく似ているように思いました。
井手:そっくりです。90年代半ばから日本人は貧乏になっていく。ほぼ一貫してずーっと所得が落ち続けた。こんな国はありません。世帯所得で見るとこの20年で2割くらい落ちている。660万円が542万円まで落ちてきている。昔は父親が働いて母親が家にいましたが、夫婦で働きに出る時代になった。二人で働くようになったのに、世帯の収入は落ちている。つまりめちゃめちゃ貧しくなっているわけですね。
木本:二人で働くようになったのに2割ですか。すごいですね。
少子高齢化と世帯年収の関連性とは?
井手:もう少しリアリティのある話をします。1996年くらいがピークの世帯年収が維持できていたとしたら、その差の分だけ貯金できたということになりますよね。いくら貯金できたか計算すると、平均1500万円です。子どもを高校と大学に行かせるおカネが、授業料とかいろいろ含めて900万円、地方から東京にきた場合の仕送りがだいたい400万円ちょっと。合わせると、子どもひとりを高校大学に行かせるのに1300万~1400万円かかるわけです。
これで少子高齢化の理由が説明できるでしょう。日本人は貧乏になり、貯金できずに子どもを学校に通わせられない。だから子どもを産まない。家族が増えることはとてもいいことなのに、おカネの負担が厳しいからという理由で「子どもを産まない社会」になってしまった。
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