ガラパゴス化する、日本の自転車メーカー アジアで自転車ブーム。でも、日本勢は「不戦敗」

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ジャイアントの地道なブランド戦略

象徴的なのは、現在、高級自転車に乗ることが社会的なステータスとなりつつある中国で、日本メーカーの存在がまったく見えず、台湾メーカーの独壇場になっていることだ。

台湾のメーカーは10年以上前から将来の投資と腹をくくって中国での販路開拓とブランドの定着に力を注いだ。一方、日本のメーカーは中国市場の単価が安すぎると早々にあきらめてしまった。日本のメーカーは数年単位で親会社から社長が派遣されて交代するため、長期ビジョンに基づく経営戦略が苦手だと言われる。

ジャイアントの成長の軌跡を記した、筆者の著書

しかし、台湾メーカーは基本的にすべて創業者企業であり、変わり身も早いが、長期的な取り組みも必要とあれば厭わないところがある。例えばジャイアントは1990年代後半から中国進出を本格化した後、自転車のファンを集めたイベントやサイクルクラブの運営、ブランド定着のための広告を長期的に中国で打ち続けながら地道に知名度を上げつつ流通網を開拓し、最初の10年は赤字に耐え、その後、しだいに収益を上げ、今ではジャイアントの自転車は窃盗団に真っ先に狙われる高級ブランドの地位を確立している。

かつては1台がせいぜい日本円でも数千円でしか売れなかった自転車が、今や上海や北京などの大都市圏を中心に1台5万円以上する自転車が飛ぶように売れ、台湾メーカーは「やっと収穫の時が来た」とほくそ笑んでいるところだ。

再起に10年はかかる

台湾全体の自転車輸出は、2011年に比べて2012年は販売台数が減ったにもかかわらず、逆に売り上げは10%近く伸びた。その理由は中国などで1台当たりの平均単価が前年比で379米ドルから417米ドルへと10%も高くなったからである。台数が減りながら輸出額が増える現象は2~3年ほど前から起きており、高級車路線を選んだ台湾メーカーの戦略眼の正しさを照明したことになった。

今、日本の製造業では家電や携帯電話などに「負け組」が広がっている。その原因はどこも同じであり、先駆的なケースがこの自転車産業にあると言える。日本の自転車メーカーはママチャリ市場を守ることに心を砕いたが、主戦場である米国、欧州、そして未来の主戦場となる中国で戦うことをあきらめ、東南アジアや中国に訪れているせっかくのビジネスチャンスもみすみす逃している。

自転車マーケットは今後、広がりこそすれ収縮することはない潜在力豊かなマーケットだ。日本人にとっても自転車は思い入れのある乗り物であり、国民生活との縁も深い。ギアユニットでは圧倒的に世界一であるシマノのような部品メーカーも日本には存在している。日本の完成車メーカーが再起するには、今から始めても10年はかかるだろう。それでも再び日本において自転車の世界的ブランドが誕生することを祈るのみである。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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