目を引いたのは、インドネシア、タイ、フィリピン、シンガポール、ベトナムなど経済発展著しい東南アジアからの訪問者の多さだ。これらの国々では自転車の販売台数が軒並み急増している。経済が発展途上段階にある国においては、消費者の生活に直結する自転車の市場動向は景気を占う要素だと言われているが、その法則は正しいようだ。
日本メーカーは、戦わずして白旗
東南アジアで勃興する自転車マーケットで、チャンスをつかんでいるのは中国や台湾などのメーカーである。中国税関による輸出統計によれば、2012年の中国からの自転車輸出は、インドネシア(18%増)やタイ(51%増)、フィリピン(38%増)など東南アジア向けが軒並み急増。外貨を稼げる商品としての自転車の存在感が高まっている。
台湾メーカーも同様だ。東南アジアに近い台湾のサイクルショーは、今、これらの国々からバイヤーが集結する場となっているのだが、ブリヂストンやパナソニックなど日本の自転車の完成車メーカーは出展すらしていない。
会場で会った日本の自転車業界関係者に理由を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「海外市場で勝負しても勝ち目がないと、あきらめているんです」
日本の自転車メーカーも初めから負けていたわけではない。1990年代以前は世界一の輸出を誇り、台湾のメーカーは技術力、ブランド力とも太刀打ちできず、日本の下請けに甘んじていた。ところが、日本の「失われた20年」の間に、台湾ではジャイアント、メリダなどのメーカーがめきめきと力をつけ、日本は抜き去られてしまった。
最大の理由を一言で言えば、世界で勝負できる高付加価値の自転車に挑戦せず、、日本で毎年数百万台は売れる低価格のママチャリ(軽快車)市場に甘んじたからである。一方、輸出志向の強い台湾メーカーは、つねに最先端の欧州や米国で売れる自転車を作ろうともがき続け、結果的に大きな差がついた形だ。「ガラパゴス市場」にこだわって競争力を失った日本の携帯電話とそっくりの展開が10年以上前に起きたのが自転車製造業なのである。
現在、台湾のメーカーは自己ブランドとOEM(委託生産)を合わせると、世界の高級自転車の完成車市場において半分を製造しているとも言われる。世界最大の高級自転車メーカーとなったジャイアントの2012年の売り上げは540億台湾ドル(1台湾ドル=約3円)で、前年比で14%の成長を記録している。営業利益も同じく11%増の40億台湾ドルをたたき出した。
今のところ、日本のメーカーはママチャリと電動自転車でどうにか食いつないでいるが、いずれは廉価な中国製などに市場を奪われる可能性が高いじり貧の市場でしかない。
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