常見:伊東さんは16年にもわたって、万引きGメンをされているとのことですが、ここ数年で大きく変わったことはありますか?
伊東:若者の万引きの技術が上がっています。某匿名掲示板などでは、盗み方、見つかったときの言い逃れ方、ルートの確保方法など、万引きのノウハウが共有されているのです。腹立たしいことに、どの店舗でどんなものを盗んだのか、戦果として報告しています。
常見:テクノロジーの進化で、監視カメラをつけたり、未会計の商品を外に持ち出すと音がなったり……防犯が進むイメージばかり抱いていましたが、ネットの普及で犯罪のノウハウが蓄積されているのですね。
伊東:監視カメラをいくらつけたところで、どうしても死角はできます。タグをはずしたり、アルミホイルのバックに入れたり、テクノロジーを潜り抜けるノウハウも共有されているんです。
常見:若者の万引きは高度化していると。
伊東:万引きも高度化していますが、若者の犯罪は、万引きから「振り込め詐欺」のような犯罪にシフトしていると感じています。若者の犯罪が減ったぞ! というハッピーな話でないのかもしれません。ここ数年、高齢者による万引き検挙総数が、若者による万引き検挙総数を上回っています。そこには集団で犯行に及ぶ若者を捕捉するより、体力のない高齢者のほうが捕まえやすいという実情もあるでしょうね。
空腹・貧困を前に規範意識は無力
常見:老人の万引きが若者より増えているとのことですが、どのような理由で老人は万引きに及ぶのでしょうか?
伊東:「お腹が減っている」「贅沢がしたかった」「買うのがもったいない」というのが主な理由です。
常見:「お腹が減っている」というのは、明らかに困窮状態ということですか?
伊東:そうです。そういった場合は、入店するとすぐわかります。目がうつろで、身なりも整っていない人が多い。捕まえた人の中に、総菜売り場のコロッケをその場で食べてしまった路上生活者の老人がいました。「お腹へったの?」と聞くと、「昨日からなにも食べていない」と言います。
誤解しないでほしいのですが、一目でそれとわかる臭いたつようなタイプの路上生活者の方は、自分のおカネでやりくりしながら商品を買っています。捕まえた老人も、次にお店で見た時は、ちゃんと自分のおカネでコロッケを買っていました。盗んだときは、そうとう切羽詰まっていたのでしょう。おカネがあれば万引きはしなくても済むタイプです。盗んだものも、60円のコロッケと安価なものでした。こういった方は、おカネがあれば再犯しません。
常見:社会学者の妻木進吾先生が、ホームレスの方は生活保護をもらうことを「屈辱だ」「怠けている」と感じているから、路上で生活していると指摘していましたね。まじめで勤勉であるからこそ、その生活をしている可能性があると。
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