「奥さん、今回は普通の生活に戻れるから。明日からまじめに生活してくださいね。旦那さんに言うか、言わないかはあなた次第だから。生活が苦しいのはわかるけど、犯罪に手をそめるのは絶対にダメだよ。みんな、苦しい中で頑張っているんだから」
5月中旬の平日。人通りは少なく、一歩外に出れば暗闇が広がる夜9時半。北関東のある街の警察署の待合所にいる。取調室から出てきた鈴木百合さん(35歳、仮名)は、厳しい表情の警察官にそう諭された。私は身元引受人として突然本人に呼ばれ、到着して1時間後に彼女を引き渡された。「勤務先の上司」と説明した。彼女は涙目で、「ご迷惑をおかけしました」と警察官に頭を下げる。
今から7時間前、午後2時半ごろに彼女は市内最大のショッピングモールの食品売り場で万引きをして捕まった。私の携帯に連絡があって「お久しぶりです。実は……今、万引きして捕まっちゃいました。本当にお手数なのですが、身元引受人として来てもらえないでしょうか。誰も頼れる人がいないのです。お願いします」と頼まれた。高速道路に乗り、言われた警察署に駆け付けた。東京から車で1時間半~2時間ほど、最寄り出口を降りてからは延々と田園風景が広がった。
小学校のPTA役員を務める母親
鈴木さんは2人の子供を育てるお母さんだ。典型的な田舎の地味な主婦といった風貌で、1年前から地元小学校のPTA役員を務める。日々、家事と子育て、パート、PTA活動に追われる日常を送る。誰が眺めても、窃盗という犯罪に手をそめるような女性には見えない。
警察署を出て車に乗った。彼女は助手席に座った。5分ほど走って国道に出ると、気持ちが落ち着いたのか話し始める。
「盗ったのは、食料品です。午前中に入院する姑のお見舞いに行って、その帰り。夕方からPTAの会合があって、ちょっと時間が空いたの。病院の近くのショッピングモールで夕飯の材料を買って帰ろうとして、そこで万引きして捕まっちゃいました」
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