単純計算で、この支出だけで32万9000円だ。確かに家計は破綻している。そして現在、まだ未払いの2台の自動車税と固定資産税の請求が来ている。貯金は限りなくゼロに近い状態だ。
「義母は自営業をしていて、たぶん10万円くらいの収入があった。だから義母が元気な頃は、光熱費と固定資産税は払ってくれた。それが突然がんになって、医療費が請求されて、光熱費と固定資産税を私たちが払わなければいけなくなって、もうどうにもならない。もっと働こうと思っても子供を見てくれる義母はいないし、どうしていいかわからない状況です。子育てしながらできる仕事は、田舎なので、今の時給750円の職場しかない。それに風俗みたいな仕事は、私にはとても無理です。旦那を裏切りたくないし」
彼女は助手席で語りながら、泣きだしてしまった。5年前の破綻のときは表情が青ざめていたが、涙を流すことはなかった。万引きして警察官に怒られたのか、本当に追い詰められているのか。
地方暮らしの「クルマ」という呪縛
支出を眺めると、月4万7000円という車のローンが圧迫している。家賃のない実家住まいの利点は、帳消しだ。どうして経済的に追い詰められた経験があるのに、高額なクルマを買うのか。
「2年前に義父が亡くなったとき、これで医療費がなくなってラクになったねって、旦那はクルマを買った。240万円くらいの新車で、話し合って5年ローンを組みました。まさか、義母もがんになるとは思わなかったから……。田舎は車がないと生きていけない、それと世間体みたいな意味で、旦那にはとても軽自動車には乗せられない。家計は厳しいけど、新車の普通車を買うのは、この辺では当たり前のこと。だから車のローンは苦しいけど、仕方ない。義母にはお世話になったので長生きしてほしいけど、毎月10万円は限界を超えています」
クルマを買わなければいい、中古車で支出を抑えれば、というのは都心部の住人ならではの意見のようだ。クルマ社会である北関東では、クルマを所有しないと生活ができず、さらに世帯主が軽自動車や中古車に乗るのは“恥ずかしい”という感覚がある。平均的な世帯収入があって質素な暮らしを心掛けても、たった1台のクルマや家族の病気に圧迫され、簡単に生活は破綻する。時間を見つけながら共稼ぎし、毎日お弁当を作って節約しても、おカネは余らないどころか赤字。二世帯で暮らしても、親の病気や入院で、突然、生活苦に陥る。彼女の苦境には、地方ならではの現実があった。
亡くなった義父ががんになったことで毎月10万円以上の支出が始まり、後を追うように義母もがんになり、家計を預かる彼女は追い詰められている。もともと、無駄遣いはしなかったが、どれだけ切り詰めてもおカネが足りない。パートでもっと長い時間働きたくても、子供の面倒を見てくれる義母は入院してしまった。少しでもおカネを使わないため、万引きに手を染めた。
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