シャケを万引きした35歳主婦が抱える苦悩

PTA役員も務める真面目母に何があったのか

盗んだのは味噌、鮭の切り身、牛肉の細切れ、豚しゃぶ肉、キャベツ、ニンジン、玉ねぎ、豆腐、納豆、牛乳、ヨーグルト、冷凍食品、コカ・コーラゼロ2リットル、食器用洗剤だった。合計金額は4700円。所持金は6000円あった。私服の女性万引きGメンに捕まった後、所持金で支払って会計している。ショッピングモール側はすぐに警察を呼び、警察官に鈴木さんを引き渡した。

「最初は2000円までだったら、ちゃんと買おうと思っていたの。でも、広い売り場を回っているうちに、これも、これもってなっちゃって4000円以上の物をカゴに入れちゃった。とっさにもう、盗っちゃおうって思った。それでもっと必要な物ないかなって、いろいろカゴに入れて、そのまま駐車場に行こうとした。売り場を出たところで、女性に腕をつかまれて『忘れていることがありますよね?』って言われました」

レジに向かわずにカートのまま外へ

牛乳と鮭だけを買うつもりでスーパーに行ったはずが……

犯行を決めたのは、カゴに入れた食料品が3000円を超えてからという。周りを見回して、出入り口を確認。市内で最も広い食料品売り場である。出入り口はレジ奥だけでなく、両サイドにあった。レジから最も遠い出入り口から、カートを引き、そのまま外に出て駐車場へと向かった。食料品を車に積んで、そのまま帰れるはずだった。

「最初は牛乳と鮭の切り身だけ買うつもりだった。買い物しているうちに次のパートの休みは3日後になっちゃうと思って、仕事のある日は買物に行く時間がない。だから3日分の食料は欲しいなって。3000円超えちゃって。どうせ万引きするなら、旦那のお弁当のおかずと思って冷凍食品も入れた。4700円はちょっと高い。今月、本当に厳しくなっちゃいました」

彼女は真っ暗な田園風景を眺めながら、そうため息をついた。

鈴木さんは、結婚11年目。旦那は中小企業に勤めるサラリーマン、2人の小学生の男の子の母親だ。夫婦げんかはしたことがない、仲はいい。結婚する24歳まで地元の会社でОLだった。結婚を機に旦那の実家で暮らすようになり、27歳のとき長男出産で退職、31歳で次男を出産する。5年前から地元の野菜即売所で、時給750円でパートを始めている。

突然、電話がかかってきたが、私と鈴木さんは友人ではないし、たいした関係ではない。彼女は5年前「女性の貧困」を取材しているとき、たまたま出会った地方の専業主婦で、当時、家計の赤字が重なって、ノンバンクから140万円の借金をしたことでパニックに陥っていた。

当時、2人の子供は小さく、時間的な制約があり、140万円という負債をパートと家計のやり繰りで捻出するのは不可能と嘆いていた。クルマのローンの返済日が1週間後に迫り、真っ青な表情の彼女に「私、どうすればいいでしょうか?」と迫られた。「旦那に借金のことを話し、一緒に返済すれば」と答えたが、彼女は勢いよくクビを振った。ノンバンクで借金をしたことに大きな罪悪感があり、「旦那には絶対に言えない」と繰り返し言っていた。

次ページ借金返済のため彼女が選んだ“仕事”は?
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非正規労働者が年末年始の待遇や病気休暇などについて正社員との格差是正を訴え、最高裁は格差は不合理で違法とする判決を出しました。一方で賞与や退職金についての格差是正はほぼ全面的に退ける判決も。非正規労働者の待遇は改善するのでしょうか。

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