盗んだのは味噌、鮭の切り身、牛肉の細切れ、豚しゃぶ肉、キャベツ、ニンジン、玉ねぎ、豆腐、納豆、牛乳、ヨーグルト、冷凍食品、コカ・コーラゼロ2リットル、食器用洗剤だった。合計金額は4700円。所持金は6000円あった。私服の女性万引きGメンに捕まった後、所持金で支払って会計している。ショッピングモール側はすぐに警察を呼び、警察官に鈴木さんを引き渡した。
「最初は2000円までだったら、ちゃんと買おうと思っていたの。でも、広い売り場を回っているうちに、これも、これもってなっちゃって4000円以上の物をカゴに入れちゃった。とっさにもう、盗っちゃおうって思った。それでもっと必要な物ないかなって、いろいろカゴに入れて、そのまま駐車場に行こうとした。売り場を出たところで、女性に腕をつかまれて『忘れていることがありますよね?』って言われました」
レジに向かわずにカートのまま外へ
犯行を決めたのは、カゴに入れた食料品が3000円を超えてからという。周りを見回して、出入り口を確認。市内で最も広い食料品売り場である。出入り口はレジ奥だけでなく、両サイドにあった。レジから最も遠い出入り口から、カートを引き、そのまま外に出て駐車場へと向かった。食料品を車に積んで、そのまま帰れるはずだった。
「最初は牛乳と鮭の切り身だけ買うつもりだった。買い物しているうちに次のパートの休みは3日後になっちゃうと思って、仕事のある日は買物に行く時間がない。だから3日分の食料は欲しいなって。3000円超えちゃって。どうせ万引きするなら、旦那のお弁当のおかずと思って冷凍食品も入れた。4700円はちょっと高い。今月、本当に厳しくなっちゃいました」
彼女は真っ暗な田園風景を眺めながら、そうため息をついた。
鈴木さんは、結婚11年目。旦那は中小企業に勤めるサラリーマン、2人の小学生の男の子の母親だ。夫婦げんかはしたことがない、仲はいい。結婚する24歳まで地元の会社でОLだった。結婚を機に旦那の実家で暮らすようになり、27歳のとき長男出産で退職、31歳で次男を出産する。5年前から地元の野菜即売所で、時給750円でパートを始めている。
突然、電話がかかってきたが、私と鈴木さんは友人ではないし、たいした関係ではない。彼女は5年前「女性の貧困」を取材しているとき、たまたま出会った地方の専業主婦で、当時、家計の赤字が重なって、ノンバンクから140万円の借金をしたことでパニックに陥っていた。
当時、2人の子供は小さく、時間的な制約があり、140万円という負債をパートと家計のやり繰りで捻出するのは不可能と嘆いていた。クルマのローンの返済日が1週間後に迫り、真っ青な表情の彼女に「私、どうすればいいでしょうか?」と迫られた。「旦那に借金のことを話し、一緒に返済すれば」と答えたが、彼女は勢いよくクビを振った。ノンバンクで借金をしたことに大きな罪悪感があり、「旦那には絶対に言えない」と繰り返し言っていた。
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