では、中国には総監クラスの仕事をやれる人材がいないかというと、もちろん、そんなことはありません。ポテンシャルが高い人材はいるけれども、そういう人は「日系企業ではどうせ昇進できないでしょ?」「日系企業は能力主義じゃないんでしょ?」と思っていて、そもそも日系企業に就職しない。一方、能力さえ高ければ昇進させたいとは思っている日系企業も、メガネにかなうローカル人材が見つからない。そんなギャップが生じているのです。
そもそも、中国人はなぜ昇進にこだわるのでしょうか? その背景には、明確な社会格差が横たわっています。
昇進すれば、給料は倍々ゲーム
ホワイトカラーがエリートとして称されたのも、今は昔。その数は今や全国で8000万人とも言われており、上海では、新卒ホワイトカラーの給料は3000元ほど。日本円で言えば4万5000円(1元=15円換算)程度です。
上海の家賃は決して安くなく、市内から30分の場所でも一部屋15平方メートル程度の家賃が月1000元(約1万5000円)で、3000元の給料ではこれが精いっぱい。日本と違い、単身者向けのワン・ルームもないので、2LDK、3LDKの部屋を、6人とかでシェアして借り、ベッドひとつ置いたらいっぱいの部屋だけが自分のスペースです。こうした生活の現実を突きつけられると、ホワイトカラーへのあこがれも薄れるばかり。中国の労働層の中核を占める「80後」たちの生活は、まさに「大学は出たけれど……」を地で行く状態です。
手っ取り早く、その生活を一変できるのが、昇進。新卒社員も経理(課長)クラスに昇進すれば、一般的には給料が6000~1万元超まで(約9万~15万円超)となり、さらに、経理(課長)から総監(部長)クラスに昇進すれば、最低でも1万5000元(約22万5000円)はカタい。高ければ2万元(約30万円)、3万元(約45万円)にもなります。つまり、昇進するときの給料が倍々ゲームなのです。
新卒の場合、給料は3000元程度ですので、ほとんど外食せずに毎日弁当を持っていき、退社後の付き合いもなく家に帰って、出費を最小限に抑えます。それが、経理(課長)になって給料が倍増すれば、少し遊ぶ余裕も出てきて、iPhoneなども買えるようになります。さらに、総監(部長)になって給料が2万元(約30万円)になれば、相当、生活が豊かになります。上海の物価は東京の約2~3分の1ですから、東京のサラリーマンでいうと、給料が約60万~90万円ぐらいのイメージです。
昇進すれば生活が豊かになり、昇進しなければ搾取されたまま。そういう経済格差がはっきりあります。その格差が今後、ますます広がることはあっても、縮まることはないことを80後のホワイトカラーはわかっています。だから、みんな上に上がろうと必死なのです。
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