子どものゲーム依存症を軽く見てはいけない 将来に禍根を残すかもしれない

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私のクリニックには、多くの子どもたちがゲーム依存症で受診しにきます。日がな一日、ゲームばかりやっていてほかのことが満足にできず、学校生活も社会生活もなおざりになってしまう。

光の刺激により脳波に乱れが生じる

ゲーム依存が厄介なのは、光の刺激により脳波にてんかんのような乱れが生じやすくなることです。ゲーム依存症の子どもたちの中には、「ゲームてんかん」とでも呼ぶべき(私が命名しました)症例が増えてきています。

日本てんかん協会のHPによれば、「てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見が伴う(WHO<世界保健機関>編:てんかん辞典より)」とあります。

個人差はありますが、ゲーム依存で私のクリニックを受診した子どもの脳波を調べたところ、ほぼ全員に、通常では出てこない大きな乱れが計測されました。昔の「テレビの見すぎ」「本の虫」には見られず、ゲーム依存特有のものと推察されます。これが、ゲームを取り上げるとすぐキレるなどの暴力性をつくるのです。

私の患者の中に、ある12歳男児がいます。彼への症状を診断すると「注意欠陥多動症」。小学1~2年よりゲームに没頭し、家族に注意されるも辞めず、父親が怒ると母親へ暴言、上腕の肉を食いちぎったこともありました。ゲームをしないときは絶えずイラつき、精神運動興奮が激しかったのですが、本人は覚えていないという重症例でした。

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私はゲーム中毒と診断し、脳波が改善するまで5回測定しました。彼は当院を受診後、ゲームを中止させました。その後、2週間は精神運動興奮状態が見られましたが、4カ月後には落ち着きを取戻しました。

デジタルゲームはかつてテレビゲームなどとも呼ばれ、家族でやったり、テレビそのものを見たり時間をうまく調整しながらある程度、親の目の届く範囲で計画的に遊ぶ余地がありました。現代では1人1台の携帯電話やスマホ、タブレットがあてがわれ、完全に「個」のものになり、家族のコントロールが利かない距離となってしまいました。ましてや、親自身もデジタルゲームで育っている世代ですので、子どもが長時間没頭していても許容してしまうケースが多いのです。

ゲームスマホによる症状は①依存症②禁断症状③てんかん④生活態度の乱れ(無気力、投げやり的生活)の4つの特徴があると確認しています。私は最近のポケモンGOをはじめとするゲームやSNSなどが、人間的に成熟していない子どもにも流行していることに危機感を募らせています。発達する脳を持つ子どもへの悪影響が、将来に禍根を残すかもしれないからです。

久場川 哲二 医学博士

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くばがわ てつじ / Tetsuji Kubagawa

1970年に慶應義塾大学医学部を卒業して以降、45年以上にわたり一貫して児童精神医療に携わる。発達障害やゲーム依存症など、数多くの子どもたちをこころの病から救ってきた。また、川崎市の学校訪問を15年間続けるなど、医療と教育現場の連携推進にも積極的に取り組んでいる。久場川こども発達クリニック院長兼医療法人社団ランタナ会理事長、日本精神神経学会指導医などとして活躍。著書に『子どものこころは「公教育」が救う』(幻冬舎メディアコンサルティング)。

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