国連が定めた「難民救済策」は機能していない 新たな支援システムと日本の関与が必要だ

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こうした主張はある意味で的を射ている。ケニアの総人口はおよそ4400万人、人口の1.3%が難民である。同国は1990年代から多くの難民を受け入れており、このダダーブ難民キャンプが設立されたのは1991年だ。既に四半世紀が経過している。ちなみにケニアの国内総生産の規模は日本の76分の1に過ぎない。

先進ドナー諸国はこれまで難民受け入れ国に対して人道・開発援助を行う一方、難民を発展途上地域に封じ込める手法をとってきた。難民キャンプは正にそうした手段として長年活用されてきたものだ。経済的な余裕に乏しいホスト国は難民を受け入れる一方、ドナー国からの援助の一部を難民キャンプの周辺地域への支援・開発に回すことで一応のトレードオフを成立させてきたのである。そしてこの歪な「取引」を長く続けた結果、世界の難民の大半が経済的な体力に乏しい途上国に長期間にわたり閉じ込められるという事態を招いた。ダダーブ難民キャンプはその典型例といえる。

あからさまに政治利用される難民問題

難民問題の規模が拡大するなか、本来、人権・人道支援の観点から議論されるべきはずの難民問題がまったく別の視点から論じられることが増えている。とりわけ懸念されるのは難民問題があからさまに政治利用されていることだ。

欧州連合(EU)は今年3月にトルコ政府とEUに流入する不法移民の規制で合意した。難民や移民の多くが利用する、トルコからギリシャに渡り、そこからEU諸国へと流入するルートを遮断することが最大の目的である。トルコはギリシャに不法に到着したシリア人を含む難民や移民全員の送還を受け入れ、一方でEUはシリア難民数万人をトルコから直接受け入れてEU加盟国に割り当てるほか、トルコへの支援金も拡大させるという仕組みである。またEUはトルコ人に対してEUへの入国ビザを緩和することも示唆している。EU諸国の目的は難民を発生地域に「封じ込める」ことでありトルコもEUの条件を呑むことでメリットを得る「取引」である。

だが、この「取引」は一向に進展していない。最新の報道によると当初数万人の難民をこの取り決めの下で受入れるはずであったEU諸国はこれまでわずか177人のシリア難民を受け入れただけだ。繰り返すがシリア難民は現在480万人おり、未だに流出は止まっていない。この程度の対応では何も解決しないことは明白だろう。

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