焼き肉店の部位メニューが細分化された理由 SNSを軸に価値の再定義と需給が一致した

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よって、タンにカルビにロースがメニューから消えたわけではありません。たとえば、タンはタン先、タン元、芯タン、タン下などに細分化され、芯タンは、舌の付け根で脂肪がのった霜降り状の柔らかな部位なので、硬めのタン先とは区分けして食べられるようになりました。ロースもリブロース、肩ロースなどに細分化。カルビに至っては、同様に細分化が進みましたが、結果として、完全にメニュー名から消し去っている「赤坂みすじ」(東京都港区)のような焼き肉店も出てきました。

肉メニューの細分化が進んだ理由として、肉の部位にはこれまで厳密な定義がなく、赤身っぽいのはロース、サシ(霜降り)の入ったのはカルビ程度の分類しかなく、細分化による価値の再定義をしやすい状態にあったことに起因しています。希少部位は一昔前まで、上カルビや上ロースとして細かい区分けなく、提供されており、たとえばザブトンは特上カルビとして、提供されていました。

キラ星のごとく登場したように思われがちなこの希少部位が、焼き肉店の解釈の仕方、切り方により誕生したメニューだったのは実に驚きです。ともあれ、このメニューの細分化により、焼き肉が日本のユニークな食文化として確立していくことに拍車がかかりました。

希少部位の登場で、部位の単位、名称の細分化により、焼き肉文化促進に貢献すべく、私のような焼き肉探検家、焼き肉奉行、焼き肉部長のタイトルを自称する蘊蓄を垂れたい人が増加したのは間違いありません。焼き肉の奥深さを知る蘊蓄を垂れたい焼き肉ハードユーザーは、希少部位のことを良く知らないソフトユーザーを呼び込みます。個人的にはシャトーブリアンから少し外れた側の部分が柔らかくて噛み応えもあり、お肉の味も濃厚でおいしいと思っています。

SNSの盛り上がり、定着時期と合致

10年前というと、ちょうどFacebook、TwitterなどのSNSが日本でも盛り上がり始めた時期と合致します。ここ数年では、より写真、動画を鮮明に打ち出すSNSのInstagram(インスタグラム)でしょうか。SNSの盛り上がりと焼き肉メニューの細分化による希少部位の提供は偶然ではないはずです。なぜなら、焼き肉メニューの細分化された生肉状態の希少部位は投稿映えするからです。その証拠に、提供する焼き肉屋側もSNS投稿映えする工夫を凝らして盛り付けしています。

✔ お皿に盛られた部位に名札を付ける(結構な焼き肉店で目にします)
✔ 木箱に入れて盛りつけて提供(浜松町・くにもと、代官山・かねこ)
✔ 肉の階段状に盛り付ける(浜松町・神戸びいどろ亭、銀座・WORLD DINER)
✔ ざぶとん重ね盛り(渋谷・渋谷ざぶとん)

 

工夫を凝らした盛り付け(著者撮影)
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