内需産業は円安によってコストアップだが…
内需産業の場合、円安による売り上げ増大効果は、まったくない。その反面で、コストは確実に上昇する。食料品産業などの場合には主として輸入原材料の価格上昇によってコストが上昇する。そして、どの産業であっても、電力価格の上昇を回避することはできない。
内需型の産業の中で電力使用量が多いのは、鉄道会社である。ここでは、関東地方の民鉄で、路線が最長である東武鉄道を取り上げよう。
08年度の同社の消費電力量は、5億4894万キロワットアワーだ(『鉄道統計年報』による)。他方、資源エネルギー庁によると、11年初めの特別高圧の料金は1キロワットアワーあたり10・52円だ。これらの数値を用いれば、同社の電力コストは57・7億円になる。
同社の13年3月期の連結業績予想によると、通期営業利益は470億円で、当期純利益は250億だ。他方、同社のセグメント情報によると、利益における運輸事業の比率は60・4%だ。この比率で案分すれば、13年3月期の運輸部門の当期純利益は約150億円になる。これに対する電力コストの比率は38・2%だ。
ところで、12年の輸入額を11年と比較すると、原油は7・3%増加し、LNGは25・3%増加した。これらの合計は、12・6%上昇した。これは、結局は電気料金に転嫁されると考えざるをえない。
仮に電気代が12・6%上がれば、東武鉄道運輸部門の純利益は、4・9%減少することになる。これは、決して無視できる数字ではない。これを運賃に転嫁すれば、家計の負担になる。それにもかかわらず、同社の株価も、12年11月第1週の417円から13年2月第2週の501円へと20・1%上昇している。
電気料金の上昇で純利益が数%圧迫されるのは、鉄道各社とも同じような状況だ。しかし、どこも株価はかなり上昇している。これも不可思議な現象である。
これまでの日本では、「円安なら株高」と考えることに根拠があった。しかし、事情が変わったのだ。とくに大震災以降、輸入燃料に頼る火力発電の比重が上昇したため、電気料金が為替レートに依存するようになった。そして、この面では、円安は明らかに収益圧迫要因であり、したがって株安要因なのである。
以上で述べたどの場合も、株価が上昇する理由は「株価が上昇すると期待されるから」ということしかない。これはバブルのメカニズムだ。確かに、赤字企業であっても、株価が上がると期待されれば、短期的には株式の売買で利益が得られる。だから、株価が上がると期待される限り、株価は上がる。しかし、株価が長期的には企業の利益と無関係ではありえないというのも、歴史的なデータが示すところである。
(週刊東洋経済2013年3月16日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら