「円安なら株高」は、昔のことのはず 減益なのに、株価は急騰の不思議

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高炉4社のすべてが収益激減で株価上昇

JFEホールディングスの場合、今年2月に発表された決算短信によれば、13年3月期の通期会社予想は、売上高は対前年比0・1%増の3兆1700億円だが、営業利益は対前年比10・7%減の400億円だ。10月の中間決算時点における13年3月期の通期予想では、売上高は対前年比0・4%増の3兆1800億円、営業利益は同22・8%増の550億円だった。つまり、円安が進んだ11月から3カ月あまりで、利益見通しが27%下方修正されたことになる。

売上高が(わずかだが)増加しても、利益は減少する。これは、新日鉄住金と同じ構造だ。そして、それでも株価が上昇しているのも同じだ。同社の株価は、12年11月第1週の1092円から13年2月第3週の1939円へと、77・6%も上昇した。

日新製鋼ホールディングスの「決算発表用資料」(12年11月)から、日新製鋼分を見ると、売上高は、12年3月期の5578億円から13年3月期の5200億円に減少。営業利益は、70億円から40億円の赤字に転落する。しかし、同社の株価は、12年11月第1週の489円から13年2月第3週の726円へと上昇した。

神戸製鋼所の場合、13年3月期の通期予想は、売上高は対前年比9・4%減の1兆6900億円だが、営業利益は対前年比83・5%減の100億円だ。しかし、株価は、12年11月第1週の66円から13年2月第3週の121円へと、大幅に上昇した。

このように、どの会社も、「収益が激減して株価が上昇する」という形になっている。ファイナンス理論の教科書には、「株価は、長期的には利益の見通しによって決まる。利益が増加すれば株価は上昇するが、利益が減少すれば株価は下落する」と書いてある。いまの日本の株式市場を見ていると、「鏡の国」に迷い込んだアリスのような気持ちになる。ファイナンス大学院で「株価形成」について教えなければならない教師は、さぞや苦労するだろう。試験の答案に「利益が減ると株価は上がる」と書いてあっても、不合格にするわけにはいかないからだ。

なお、以上の議論に対して、「13年3月までの利益減少は円安以外の原因によるのかもしれない。4月以降は円安で利益は増えるかもしれず、株式市場はそれを期待しているのだ」との議論があるかもしれない。

しかし、前回の図で示したように、輸出産業でも、製品中の輸出額より輸入原料額が多ければ、円安で収益は減少する。日本の鉄鋼産業は、その領域に入っている可能性が高い。だから、今後、円安が進行すれば、利益はさらに減少するはずだ。

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