ヒデユキさんは医療用医薬品卸売会社の契約社員である。この1年間は、会社側が人件費を抑えるために残業をなくしたせいで、毎月の手取り額は15万円を切るようになってしまった。
担当しているのは商品管理で、主には、製薬会社側から届いた医薬品を倉庫にしまったり、医療機関や薬局などから注文があった医薬品を倉庫から出したりする、出入庫作業を担っている。単純労働に見えるが、実際には、医薬品ごとに商品名やコード番号、有効期限、出庫数、在庫数などさまざまなデータを「とにかく早く、正確に」照会しなくてはならない、神経のすり減る仕事だという。
また、ヒデユキさんが勤める会社は「お得意さま第一主義」という大義名分の下、顧客からの注文に迅速に応えることを売りにしており、一部の同業他社が1日の配達時刻や回数をあらかじめ決めているのに対し、注文を受けるたびに配達に出向くというシステムを取っている。この結果、彼のような契約社員らが1日に何度も出庫作業に駆り出されることになり、試しに万歩計で計ってみた1日の歩数は2万歩に達するほどだった。ヒデユキさんはお客さま第一主義の本質をこう分析してみせる。
「顧客にとっては注文した商品がすぐ届くというのは、他社にはない“価値”だと思います。でも、それは、私たち非正規労働者が、窓もない狭くて暗い商品倉庫をコマネズミのように駆けずり回ることで生み出される“価値”です」
正社員から見下されていると感じる
ヒデユキさんがもうひとつ、腹立たしく思うのは、事あるごとに営業職の正社員から見下されていると感じることだ。
あるとき、自身と同じく非正規で働く同僚の勤務態度の悪さが目に余ったため、ヒデユキさんが正社員にそれとなく進言したら、こう返されたという。
「しょせん、契約だからな。(採用されるのは)その程度の人間なんだよ」。この正社員にヒデユキさんへの悪意はなかったと思う。が、思わずこぼれた言葉だっただけに彼の本音が透けて見えた気がした。また、多くの正社員は倉庫の片付けは契約社員の仕事だと言わんばかりで、どんなに契約社員たちが出庫作業に追いまくられていても、医薬品を入れる専門容器ひとつ、元の位置に戻してはくれないという。
取材の中でヒデユキさんが最も多くの時間を割いたのが、こうした正社員への批判だった。
「一定の時刻になると、自分の席に着いて顧客からの注文電話を待っているだけ」
「大学を出てやっているのがこんな仕事とは情けない」
「返品になった向精神薬を何日も放置していた社員がいた」
「いちばん大きな顔をして、仕事の足を引っ張っているのは何もしていない正社員」
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