「若者の酒離れ」は本当か(上)

答えは「NO!」鍵は、万博世代の息子たち

あのジョセフ・ナイが教室の床にぺたん、と。

「マンチェスターのときのような企業留学ではありませんが、1989年からは、2年おきぐらいに、スイス、ドイツ、アメリカといった国々に出張に出かけていました。それから、こんどはボストンのケネディスクールへ3ヶ月。規制緩和の流れの中で、排出権取引を含む、エネルギー政策の勉強にね」

「で、驚いたのは、当時のスクールの学長はジョセフ・ナイだったんですが、あるとき、何かのゼミの時間に、ふらりと教室に入ってきて、席があいてなかったんで、床にぺたんと座って、そのままゼミの内容を聞いているんですよ」

「当時の僕にとっては雲の上の人でしたからね。これはほんとにびっくりしました。しかも、学長なのに、床にって…(笑)」

人生は楽しまなきゃ損。それを息子にも伝えたい。

イギリスで出会った、酒の飲み方の多様さ、そして自由の国アメリカでの、驚くほどのフランクさというか、平等主義、これらの異文化体験の話は、息子さんにもされていますか?

「いや、そういう話をわざわざしたことはないですね」

ここで、ご子息のRくん登場。Bar Holly最初の、親子2代のお客さまです。

「僕が親父から学んだ、正確には親父の書斎から盗んだ最初の知識は、『美味しんぼ』でした。1巻から100巻までずらっと揃っていて、子供の頃から何度も繰り返して読んでいました。なので、僕の中では、山岡さんと栗田さんは5回結婚してるんです(笑)」

「酒もスキーもサッカーも、人生の、というか、まだ自分は若すぎて、人生を語る資格はないですが、楽しみのほとんどは親父に教えてもらいました。音楽だけは自分で見つけましたけど」

実はRくんは、大学時代にバンド結成。就活が迫った時期には、お父上が、「バンドばっかりやって」と、心配されていましたが、昨年4月、無事、某金融機関に就職。

初めてHollyに来てくれたのは、就職後しばらくたってから。あるシングルモルトを「これは、息子に飲ませたい」と、親子での来店でした。

そのときの印象は、「子は親の背中を見て育つ」とは、こういうことなんだ、ということ。

マナーや、オーダーの仕方、酒についての質問など、すべてに、大人の楽しみとしての酒とその文化を愛する父親のDNAがしっかり受け継がれていました。

「親の背中」は、とかく、苦労話のたとえで語られがちですが、都市部の上場企業という条件下ではあるにせよ、戦後の日本で、物質的に豊かになっていくことの楽しさを成長期に体験した人の「背中」は、少し違うのかもしれません。

先進国である欧米の文化を、偏見や政治的な前提なしに学び、吸収し、自分自身の生活を豊かにすることが可能になった世代。

山下氏親子に限らず、一見のお客さまの中にも、海外体験を経て、バーでの酒の楽しみ方に出会い、同伴の息子さんにもそれがしっかり受け継がれている、酒の世界をスマートに楽しめる方々が少なからずいらっしゃいます。

そういうお客さまにお会いするたびに、「若者の酒離れ」を現代の絶対的な真理のように受けとめてしまったビールメーカーが、混ぜ物のない本物のビールを造らないでいる現状、海外でも評価の高いウィスキーを造ることのできる洋酒メーカーが、ただのジュースをノンアルコール・カクテルと称して棚に並べる現状を、ただただ残念に思います。

人生の楽しみ方を知っている父の背中を見て育ち、自分も大人になったら、その父のように、人生を豊かにしてくれるものと出会い、楽しめる人になりたい。そんな「万博世代」の息子たちは、全国にたくさん散らばっているはずです。

時間はかかるかもしれませんが、まともないい酒を造り、その飲み方、楽しみ方を知らせることで、真摯にアプローチしていけば、それはきっと、そんな父親をもたなかった周辺の若い世代にも普及していくことと思います。

供給する側の大手企業が、意識の低い方に合わせて大量に製品を供給しつづければ、いずれ、その文化は滅びます。

長引く不景気で、ボトムアップが難しい今だからこそ、次世代の文化のキーマンとなる万博世代の息子たちにスポットをあて、人生の楽しみたりうる商品を供給していくことが、「若者の酒離れ」を打開する糸口になるのではないでしょうか?

次ページ若者、R君からのお願い
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