黒毛和牛「A5」は、農家を守るための策だった 格付け上位の牛肉は「おいしい」のか?

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さて、ここまで読んでこう思った読者もいるだろう。

「食肉格付けで有利な黒毛和牛が生き残って、不利な品種が淘汰されるのは宿命だ。仕方のないことではないか」

確かにそういう考え方もあるかもしれない。ただ、その考え方を認めるためには、「食肉格付けで上位になる牛肉が本当においしければ」というただし書きをつけたい。そう書くと多くの人が「え? A5の肉はおいしいんじゃないの?」と疑問を持つだろう。残念ながら、そうとはいえない。というのは、先の日本食肉格付協会の基準の中で「おいしさ」という言葉はいっさい出てこないのである。ウソだと思ったら、ぜひ協会が公表しているパンフレット「牛枝肉取引規格の概要」を読んでみてほしい。どこにも味について言及した基準は載っていない。

いやいや、基準に味のことが言及されていなくても、そもそも霜降り度合いが高いことがおいしさに反映するから基準になっているんじゃないか。そう思われる方もいるだろう。

「食べるならA3くらいがいいよね」

もちろん筆者も、格付け基準がまったく味を反映していないというつもりはない。ただし「A5の肉がおいしいわけじゃない」ということは、多くの食肉関係者が異口同音に言っていることでもあるのだ。私も食肉業界の集まりに出席することが多々あるが、懇親会などでA5の肉が供されると皆が「おお、いいサシだね」「小ザシが見事だね」と品評するのだが、喜んで口にする人をあまり見ない。それどころか「食べるならA3くらいがいいよね」という人のほうが体感的に多い。

また、筆者がとある会で講演をし、A5の黒毛和牛偏重を批判する話をした後の質疑応答で、老舗の牛肉店の役員さんが憤って「あなたはそう言うが、A5にもおいしいものがある」と反論をしてきたことがある。しかしこの話、「A5にもおいしい肉はある」といった時点で、おいしくないA5もあるということを自分で認めているようなものではないか。

もちろん筆者はA5の肉をおとしめているわけでも、格付けをやめろといっているのではない。ただ、格付けが上位になることで価格が高くなるという現実が、生産者が黒毛和牛ばかりを選択する状況を作り出してしまったことが悔しいのである。

次回は、格付け最上位のA5を狙うがために、黒毛和牛がどんどんおいしさから離れている実情について書いていこうと思う。

なお、A5の格付けの話題については、友人であり、おいしい牛肉を食べさせてくれる格之進グループの長である千葉祐士氏の記事(「A5」の肉が最も美味しいとは限らない理由)も詳しいので一読されるといいだろう。

山本 謙治 農畜産物流通コンサルタント&農と食のジャーナリスト

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やまもと けんじ / Kenji Yamamoto

1971年、愛媛県生まれ埼玉県育ち。学生時代にキャンパス内に畑を開墾し野菜を生産。大学院修士課程卒業後、大手シンクタンクに就職し、畜産関連の調査・コンサルティングに従事。その後、花卉・青果物流通業を経て2004年に(株)グッドテーブルズ設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事する。その傍ら日本全国の佳い食を取材し、地域の郷土料理や特産物を一般に伝える活動をしている。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のほか、『激安食品の落とし穴』(KADOKAWA)、『日本の「食」は安すぎる』(講談社プラスα新書)など著書多数

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