クリントン氏が嫌う「北欧型福祉」の可能性

柔軟な雇用調整と失業対策は米国でも有用だ

こうしたセーフティネットについてはモラルハザードの懸念もあるが、経済に悪影響を与えているという事実はない。労働者が一時的に失業しても、それが深刻な影響を伴わないからこそ、雇用する側にとっては採用や解雇が容易になり、雇用される側にとってはより給料の高い仕事を選びやすくなっている。

このように北欧諸国で導入されている、柔軟な雇用調整と失業者保障を組み合わせた「フレキシキュリティ」と呼ばれる政策は、自由貿易の負の影響を抑制している。

モノやサービス、人が国境を越えて自由に行き来する仕組みが経済にメリットをもたらすのは事実だが、過去数十年間を振り返ると、多くの国でそうした恩恵は均等に分配されているとはいえない。低所得や失業に苦しむ人、移民の増加により社会保障給付額が減額された人などの間では、不公平感からくる不満やフラストレーションが高じている。

アメリカンドリームにも通じる

今、グローバリゼーションの影響に対する怒りは沸点に達し、欧米社会を根幹から揺るがしている。英国のEU(欧州連合)離脱や欧州での大衆主義政党の勢力拡大、米国におけるトランプ氏、サンダース氏への支持の拡大はその表れである。

もちろん北欧型の福祉国家が大衆主義や排外主義を完全に防げるわけではない。極端な政治思想は各国に存在する。だが高い雇用率を維持し、不公平感を抑制していることは確かだ。

社会保障を充実させるには、より高い税負担が求められる。だが多くの人に機会を平等に与え、国民の充実した人生を可能にするため、高い税負担はおおむね支持されている。

社会保障の充実はアメリカンドリームの実現にもつながるはずだ。民主党の大統領候補となったクリントン氏はぜひ、どんな制度が必要か再考してほしい。デンマークから学べることは必ずあるはずだ。

週刊東洋経済8月13日・8月20日合併号

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