老舗企業だらけの日本の未来は、ヤバすぎる 経済活性化には新興企業が不可欠だ

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創造的破壊が起こる過程では、一部の企業が雇用や資産を失う一方で、新興企業が雇用などの新たな受け皿になっていく。実際、世界銀行の調べでは、先進国19カ国において、撤退する企業の割合と新規に参入する企業の割合に高い相関関係があることがわかった(つまり、撤退する企業が多いほど、新規参入する企業も多い)。

この調査を見ると、日本の企業の撤退率及び新規参入率(それぞれ約4%)が低いことは一目瞭然だ。ちなみにドイツの比率は日本の約2倍、もっとも高い水準にあるフランスは日本の3倍に上る。

同様の結果は、別の調査でも見られる。広く引用される「起業家精神に関する調査(GEM)」によると、日本における新規企業の参入率は3.8%と、23カ国中最低ランクにある。付け加えておくが、これはガゼルに関する調査ではなく、新規参入企業に関する調査である。

確かに日本には多くの中小企業が存在する(少なくとも250人以上を雇用する企業の割合はわずか15%程度と先進国では最低水準にある)。が、問題はこうした企業が古いことだ。創業10年以上経つ中小企業の割合は75%なのに対して、ガゼル候補である5年未満の企業は12%、2年未満となるとわずか2%しかない。一方、フランスの場合、創業10年以上の企業は全体の40%なのに対して、5年未満は40%、2年未満は20%と日本と正反対だ。

新規企業が大企業に成長する確率も日本は圧倒的に低い。たとえば、創業から2年経った企業の雇用数は日本では平均5人なのに対して、米国では平均10人。10年後になると、その開きはさらに大きくなる。米国の平均的な製造業者はこの間に8倍に膨らみ、従業員数も80人になっている。しかし日本では10年経っても従業員はなんと2倍の10人である。この違いはサービス業になるとさらに顕著になる。

日本経済が再び浮上するには

一方、スタンフォード大学日本の起業プロジェクトリーダーを務めたロバート・エバーハート氏らが1998年~2008年に設立された3万3000社の企業のデータを独自に研究した結果、日本経済にはすでに多くのガゼルが存在する可能性がある。

ロバート氏によると、1990年代後半に政府によって推し進められた構造改革を経て、新興企業が2~3年で業界における標準的な規模に成長するようになり、5年後には新興企業の売り上げは業界平均の上位70%に達するようになった。さらに生き延びた場合、最終的には上位50%にまで成長する余地があるという。つまり、このデータが示すのは、多くの成長している新興企業は既存企業より優れており、成長の機会がないわけではないということだ。

ただ問題はこれまで示してきたとおり、新規に事業を始める企業が極めて少なく、ほとんどの業界は大企業が大きなシェアを握っている点だ。たとえば農薬業界の場合、売上高の85%は大企業が握っている。ロバート氏らの調査によると、2004年~2008年に創業した企業1000社のうち、売上高が1億ドルを超えるのはわずか2社で、55%の企業は売上高10万ドル~100万ドルの間だった。

「雇用を守る」という名の下に、既存の古参企業の保護政策に走るようでは、経済の活性化はいつまでも図れない。日本経済が再び浮上するには、新興企業の誕生と育成を促す環境を作ることが不可欠だ。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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